BIMのその先を目指して・55/樋口一希/大和ハウス工業のBIM運用・2

2018年6月7日 トップニュース

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 全社的にBIMを本格導入するため全体計画を策定し、そのための人材育成に注力している大和ハウス工業。そこに至る過程と背景を検証し、建設業界のトップランナーたる立ち位置を検証する。

 □BIM導入には事業部を超えた組織横断的な変革が必須との判断でロードマップを策定し共有□

 17年にBIM推進室を立ち上げ、BIM運用を加速化する中で策定した全体計画では、20年以降に向けたロードマップも検討されている。特筆できるのは、全社共通のBIM環境を構築し、事業部を超えた連携を行うと、BIM導入には組織横断的な変革が避けて通れないと捉えていることだ。『住宅・集合住宅・建築系部門で営業・設計・生産購買BIMを構築する』と、コングロマリット=複合企業化する大和ハウス工業の業態に相応しく、デジタル運用で一歩先を行く製造業に近似するような=生産購買BIMも視野に入れている。
 BIM推進部の発足からロードマップの検討には、伊藤久晴氏(技術部BIM推進部BIM標準推進グループ長)が深く関わってきた。伊藤氏は『Autodesk Revit 公式トレーニングガイド』(日経BP社)の執筆やBIMソフト「Revit」(オートデスク社)のユーザー組織であるRUG(Revit User Group)の初代会長を務めるなどBIM黎明期から活動を続けている。

 □課題解決策を机上の空論としないためにトップダウンで全社が一丸となりBIMを実践する□

 全体計画の策定に際しては、社内外のBIM導入の現況を調査、分析し、本連載でも報告したシンガポールでのBIM先進事情なども参考にして、目指すべき成果として4段階の進捗(しんちょく)計画「D’s BIM LEVEL」(※)を立案している。
 BIM適用の案件を一定数確保するため用途・規模などの適用案件を明確にし、建築確認申請対応といった実効面での施策も進めている。2次元に逆戻りする最悪のケースを避けるため成功事例を示して個人のモチベーションを高めるとともに、組織内で実行するプロジェクトごとに横断的に串刺しするように統括的な管理や支援を行うためのPMO(Project Management Office)を実践する。人材育成のためガイドラインの策定などの基盤整備を行い、BIM教育を実践する。ロードマップで明示した『営業・設計・生産購買BIMを構築する』を受けて、創る=設計BIMの確立をベースに、建てる=施工BIMから(施設)管理するBIMへと「一気通貫BIM」の実現を志向している。
 最も注目できるのは、課題解決策を机上の空論としないためにトップダウンで全社BIMを進めていることだ。定期的にロードマップの進捗状況をトップに報告し、確実にBIM化を進めている。
 ※D's BIM=BIMソフト「Revit」をベースにした自社仕様として英文社名のDAIWA HOUSE INDUSTRY CO.,LTD.から命名。

 □組織横断的なワークフロー改革の後には建築主・オーナーとの協働によってD's IPDを指向□

 「D’s BIM LEVEL」のレベル1は、部門別にBIM化するもので、2次元図面から3次元建物モデルによる設計に移行した場合、現状での作図コストの軽減が効果測定の項目となる。レベル2はBIMによる部門間データ連携が成立した段階で生産性向上による人件費削減の可否が問われる。
 レベル3では、設計から施工へと「一気通貫BIM」が成立、部門名称が明示的に残るとしても、部門間の壁は取り払われワークフローの革新が具現化している。建設業にとって最も重要な生産拠点である施工現場での「物・人・金」の挙動が把握でき、稼げる現場を実現する。
 最終段階のレベル4では、外部の協力業者や各分野のサプライヤーと共に、ICT・ロボットなどの異業種とも協働することで新たな事業ドメイン創出にもつなげる。(施設)管理するBIMによって建築主・オーナーに対して最適なLCC提案を行い、IPDの最重要ピースを完結してD’s IPDを実現する。次回は「一気通貫BIM」の実例と人材教育について報告する。
 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)