BIMの課題と可能性・12/樋口一希/BIMソフトと設計者との連携・2

2014年4月10日 トップニュース

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 鴻池組(大阪本社)では、建築設計部門から工務部門、施工現場までを視野に入れた「BIM活用による建築工事の革新3カ年計画」を推進してきた。建築設計部門のBIMソフト運用による設計者の意識変化とそれによる具体的な成果について報告する。


 □建築設計部門の作業プロセス改善のため、検証結果を受けBIM導入の機は熟したと判断□

 取材のきっかけとなった資料『設計作業の変化をもたらす「基本設計の内容充実+全体工程の短縮実現」』を入手したのは昨年11月のことだ。BIM運用の現況はさらに進化している。

 設計・施工を手がける案件の施主の多くは経済効率性を求めているし、他社との価格競争も厳しい。BIMソフト運用では「設計の質量」を共に改善し、定量的な成果の実現が必須となった。

 2次元CADソフトが定着する過程で、建築情報のデジタル化のメリットは自明となった。意匠、構造、設備などのレイヤーを組み合わせて選択表示し、2次元でも干渉チェックはできるし、総合図も現実のものとなった。2次元CADソフトによる設計プロセスの変革は極限を迎え、3次元の建物モデルをさまざまに活用するBIMソフト導入の機は熟した。

 設計者は、理念先行で喧伝されているBIMへ距離感を感じていたし、設計実務の中で、3次元建物モデルを構築する必要性は感じていなかった。BIM推進課では、設計者も巻き込み、複数のBIMソフトの実証的な検討を続けた。


 □設計と施工の距離(近さ)感を活かすため、実務者が本当に「使える」ソフトを採用□

 設計から施工への橋渡しとなる生産設計部門を置かない同社は、BIMソフト採用時に「設計と施工の距離(近さ)感」を最大限に活かそうと考えた。建築設計部門が選択したのは、福井コンピュータアーキテクトBIMソフトのBIM建築設計システム「GLOOBE」だった。

 GLOOBEでは日影規制などの法的条件をクリアするための検証を3次元モデル構築と同時に実施可能で、常に2Dと3Dを俯瞰、参照しながら入力する。3次元モデルの構築方法も躯体の3次元モデルの入力から内部の下地仕上材、細部部材の入力へと進むなど、実際の施工手順に近い。

 設計者は従来のBIMソフトと比較して、より現実に近い3次元モデルの入力を行うことで、その効果と可能性を実感し、ソフト習熟もスムーズに進行していった。


 □BIMソフトで実現した実施設計の前倒しで、上流に位置する基本設計の内容も充実□

 最も特筆すべきは、実施設計段階で行うさまざまな設計与条件の検討を基本設計へと前倒しすることで、設計全体の「質」的向上が顕著に表れてきたことだ。今後は実施設計に移行して設計工程全体における効率化についても検証を行う。

 「2次元CAD(図)では、頭の中で空間イメージを分解したものを表現しなくてはならないが、BIMソフト=GLOOBEでは3次元モデル構築が主目的で、そこから2次元図面を生成する。そのため設計者は、2次元で考える図面作成の制限から開放され、基本設計時にも実施設計レベルの設計与条件を含め、3次元で設計できる(筆者…せざるを得ない)。それによって上流の基本設計の内容充実が現実のものとなった」(鴻池組設計本部建築設計第一部企画営業設計グループ課長・奥村朋孝氏)

 次回は3次元モデルと2次元図面との関係、施工を視野に入れた今後のBIM運用の課題について報告する。

 〈アーキネット・ジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)