BIMの課題と可能性・14/樋口一希/二つの領域にまたがる新しい職能・1

2014年4月24日 トップニュース

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 本連載では、大手建設会社、設計事務所でのBIM運用の現況と課題について報告してきた。今回は、BIMにまつわる先進的な技術・ノウハウを確立し、小規模組織としての生き残り戦略を展開する「BIM LABO」(大阪市北区)の現在を報告する。


□BIMに関わる5人のエキスパートにより結成 使命は「伝える・創る・育てる・開発する」□

 ICT活用のためのモデルデータの標準化を推進している一般社団法人IAI日本は、2011年9月に、BIMツールを駆使し、48時間以内に「デザイン都市・神戸」に相応しい建物を設計する仮想コンペ「Build Live Kobe 2011」を開催した。同年5月に結成されたBIM LABOは「神戸市長賞」「BIMフロンティア賞」を受賞している。

 BIM LABOは、BIMに関わるソフトウェア(ArchiCAD・Revit)、教育、プログラム開発、構造設計、熱流体解析の5人のエキスパートから構成されている。コンペ提案の内容を見ても、BIM LABOが何を目指し、5人の構成メンバーが有機的に協力しながら、現在に至るまでBIMを取り巻く技術・ノウハウを培ってきたのかの実体がよくわかる。

 同社の会社概要にはミッションとして「BIMを伝える・創る・育てる・開発する」が明記されている。個々の領域での活動を紹介する。


□書籍の執筆や各種ドキュメンテーション制作などを通して「伝える」のミッションを実践□

 BIM LABOの直近の活動成果として注目を集めているのが、グラフィソフトジャパンのBIMソフトArchiCAD(最新バージョン17)関連の「ArchiCAD BIMガイドライン」だ。2次元図面による設計プロセスから、BIMによる3次元モデルを中心とした設計プロセスに移行するための実践的な作業要綱や手順を、BIM LABOが培ってきたノウハウを基にまとめたもの。

 今回、特筆できるのは3次元モデル構築の事例中でLOD(Level Of Development/Detail)に基づくフェーズに関する解説が行われていることで、「企画設計モデル+ドキュメント」「基本設計モデル+ドキュメント」がサイト上で公開されている。BIMソフト導入前でも大いに参考になるので、ガイドラインをダウンロードするとよい。


□「建築とコンピュータ」の二つの領域に跨る新しい「職能」としてのBIM LABOの存在□

 2次元CADシステムが普及する過程で、オートデスク社のAutoCADがデファクト・スタンダードとなっていくが、AutoCADが建築由来でないため、当初、通り芯、包絡処理、寸法標記など、日本的な設計製図手法の面からは課題も抱えていた。

 AutoCAD上で稼働するアドイン・ソフトを開発し、建築的なCADシステムに改編するシステムハウスも登場したし、設計組織の中にはマクロプログラムを開発し、自社仕様のCADシステムに仕立てる事例も現れた。

 建築という領域の中で、さまざまなデジタル技術が援用され、設計者の意識や作業プロセスを変化させていく。そのような状況の中で必要とされ始めたのが「A∩C:建築とコンピュータ」の二つの領域に跨がり、技術・ノウハウを駆使する新しいタイプのデジタル・アーキテクトとも呼べる人材だ。BIM LABOの構成メンバーは、それら「新しい職能」として各方面から注目を集めている。

 次回は、LODなどの最新の概念、コンセプトをいかに実務で活かし、具体的な成果を上げているのかを報告する。

 (前回記事訂正=誤・BIM LOBO、正・BIM LABO)

 〈アーキネット・ジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)