BIMの課題と可能性・17/樋口一希/小規模組織の生き残り戦略・1

2014年5月22日 トップニュース

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 各種のデジタルツールを駆使して、小規模組織として果敢な生き残り戦略を展開している香月真大建築設計事務所(東京都杉並区)の現在を報告する。


 □メディアに登場しない小規模組織のBIM運用 小さなBIMで図面作成時間は1/3に減少□

 小規模な建築設計事務所は、今後もビジネスモデルとして果たして成立していくのか。

 そんな思いを強めていた最中、Facebookのニュースフィールドに、鴻池組の記事を読んだ香月真大氏が「(小さな)BIMソフトで確認申請までの図面作成時間が従来の1/3となった」と投稿してきた。小規模組織のBIM運用の現状はメディアでもほとんど紹介されていない。小さなBIMソフトとは何かを探るため訪問した。

 早稲田大学大学院を卒業後、上海の設計事務所、親族が経営する不動産会社を経て、独立したのは2012年だ。経験も門閥もない若手設計者が事務所を運営するには現状は厳しく、友人の中には建築から離れたものもある。

 香月氏は生き残るため、デジタルツールを用いて収益源となる仕事を徹底的に高度化するとともに、海外を含め可能な限り設計競技に応募し、設計スキル、デザイン力を鍛えるという「二正面作戦」を採用した。


 □現在の住宅へのニーズを凝縮した建売住宅を「商品としての建築」として徹底的に追求□

 「業として建築」を成立させるために、事務所の業務を建売住宅の設計・監理、大手ゼネコンの業務委託、自社設計の受託の三領域に絞り込んだ。

 首都圏周辺には、中堅サラリーマンなどを中心に建売住宅へのニーズがある。年間30棟あまりを手がけている地場の不動産会社の外部協力事務所として設計・監理を受託している。

 建売住宅とはいえ、買主(施主)は限られた予算の中でも、我が家への夢、希望を実現してほしいと設計者に託す。香月氏は建売住宅が「普通の人々」が求める住宅のニーズを象徴すると考え、「商品としての住宅建築」の質を徹底的に追求している。

 香月氏は、建売住宅に求められるニーズ=要求を突き詰めると「建設費を最小限に抑える」「建蔽率・容積率・斜線を最大までとる」「共通する嗜好としての間取り+車庫+バルコニー+対面キッチン」と結論づけ、それらを「標準的な仕様」と位置づけている。


 □デジタルツールが威力を発揮する極小敷地への対応など厳しい設計与条件への対策□

 首都圏周辺で建売住宅を企画する。敷地も狭小なケースが多く、「斜線制限も10センチメートル単位の精度が要求される」など、法定規制をクリアするために設計の初期段階で質の高いシミュレーションが求められる。当然のように工期は極限まで絞られる。それらの課題を解決するために香月氏は、小さなBIMとしてArchitrend Z(福井コンピュータアーキテクト)を選択した。

 Architrend Zは長い歴史を持つ、住宅専用のCADシステムで、当初から、3次元建物モデルを構築し、そこから各種図面を生成するというBIM的なコンセプトで開発された。

 元請に納品する成果物は2次元図面だ。Architrend Zで確認申請から施工に至る各種図面作成の時間は3分の1に激減したが、新たな設計ニーズを探索するため、香月氏は足繁く現場に通っている。成果は現実のものとなり、現在、東京近隣県在住の施主から注文住宅を依頼され設計を開始している。

 次回は、掲載写真の物件を例にとり、Architrend Zでの設計手法などについて報告する。

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)