BIMの課題と可能性・20/樋口一希/BIMを共有メディアに新たな協業

2014年6月12日 トップニュース

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  5月29日に、日本ヒューレットパッカードの西日本支社において関西J-BIM研究会の第2回目の会合があった。BIMの今後の動向を探るため、本連載への掲載を前提に参加した。


□関西の著名建設会社、設計事務所が参加 ベンダー・サードパーティーも巻き込み開催□

  参加企業は、アーキエムズ、淺沼組、奥村組、建研、鴻池組、ジェイアール西日本コンサルタンツ、東畑建築事務所、徳岡設計、村本建設、at-one、BIMプランニング、ヒューマンリソシア、福井コンピュータアーキテクト(順不同。提供リストに準ずる)。

  すでに清水建設と福井コンピュータアーキテクト(J-BIM施工図CAD)とのカスタマイズ開発に関する機密保持契約、グラフィソフトジャパン(ArchiCAD)と日建設計との日本・アジア地域でのBIM促進のための戦略的パートナーシップ締結について報告した。

  今後はこのように、BIM運用の一層の進化を目的としたBIMソフトベンダーとユーザーとのコラボレーションを強化する試みは顕著となるに違いない。

  サードパーティーも参加していた。BIMプランニングは各種のBIMに精通し、ベンダーとユーザーとの関係の調整、教育ノウハウも提供するコンサルタントであり、ヒューマンリソシアはCADオペレータの派遣などで実績を持つ。BIMオペレータへのニーズもすでに現実のものとなっている。


□ネットワーク型のチーム設計の実際について、BIMソフトの開発者にユーザーが直接要望も□

  福井コンピュータアーキテクトからはBIM(GLOOBE)の開発担当者が参加し、ネットワークを介したチーム設計について、開発レベルまで包含したBIM運用のノウハウについて報告があった。

  BIM導入は、「何ができる」を越えて、「業としての建築」のあり方を変容させるインパクトをもっている。そのインパクトの最たるものがすでに普及を終えた2次元CADシステムでは自明となったネットワーク型のチーム設計だ。

  クラウドなどを用いてネットワーク空間上にBIMで3次元建物モデルを構築していく。2次元CADシステムと異なるのは、それが3次元の建物モデルであると同時に建物データベースであり、当初からネットワーク型の設計を目的としている点だ。BIM運用の更なる進化を目指し、開発者を含むベンダーとユーザーが直接、情報交換を行う重要性はますます高まっている。


□競争しつつ、いかに協力の実を上げるのか 流通性の高いデジタルだからこその課題も□

  研究会開催の1カ月ほど前に、事前に企画に賛同した3社に対してBIM(GLOOBE)による設計演習の課題が提示されていた。当日はその成果発表も行われた。

  ユニークだったのは、実際の設計案件に基づき演習+検討が行われたことで、ここでもBIMで「何ができる」かが課題ではなく、明確に「どのように実利を上げる」かがテーマとなっていた点だ。

  参加企業はJVを組む機会もある協力関係を持ちつつ、厳しい競合関係にもある。BIM運用についてどの程度、手の内を晒すのかは難しいはずだ。一方で、BIM普及期である現状では情報交換の「実」をとる方が得策だとの判断があるに違いない。BIMを共有メディアとして新たな協業関係も生まれるかもしれない。

  実施が決まったのが、「ビデオ・チュートリアル」の共同制作だ。ベンダーの協力を仰ぎつつ、研究会メンバーが主体となり制作する。一種の緊張感もはらみつつ、研究会は進行していった。

  懇親会にも参加した。匿名前提で現況を報告する。ヒューマンリソシアの参加の背景には、顕在化しつつあるBIMオペレータ=人材不足がある。

  ミャンマーで建築教育を受けた学生を採用した企業。彼らは半年にも満たない期間で、BIMに習熟しつつある。BIMは(日本的な建築の)設計ノウハウ+データベース設定の集積でもあるので、彼らにとってはBIM自体が建築的な教育ツールとなった。この企業ではアジア進出の可能性にも言及していた。BIMを取り巻き、新たな胎動が起こりつつある。

  〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)