BIMの課題と可能性・19/樋口一希/小規模組織の生き残り戦略・3

2014年6月5日 トップニュース

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  顧客(買主)ニーズを集約したデータベースを構築し、小さなBIMにより建売住宅の標準化設計手法を確立した香月真大建築設計事務所(東京都杉並区)。「業としての建築」を成立させるとともに、次の展開を見据えて、コンペにも積極参加している。「二正面作戦」のもうひとつの側面を報告する。


□小規模事務所が「仕事」を獲得する困難さも 設立間際の営業は現実的には口コミが主体□

  独立したばかりの小規模事務所にとってはいかにして「仕事」を獲得するかが喫緊の課題だ。一般消費財のようにネット・ショップで販売するわけにはいかない。東京近郊に住む施主から依頼された注文住宅も親戚からの依頼だった。予算も限られていたので、建売住宅の設計で学んだ「単価を抑える」「ニーズにマッチした間取り・仕様」を基に、自然素材を用いた木造の二世帯住宅を提案した。また、知人の不動産会社の紹介でオフィスビルのリノベーションを受託している。

  2次元図面ではAutoCAD、内装設計、インテリア・デザインの提案には3次元モデリングソフトウエア「sketchup」を主に使用している。


□これはというコンペがあれば内外問わず応募 11連敗が続いた後に入選も相次ぐ□

  コンペはネットで検索し、これはというものがあれば内外ともに挑戦している。設計与条件・要求仕様をクライアント・ニーズと想定し、設計力、提案力、プレゼンテーション能力を高める努力を続けている。3年間で応募したコンペは30回、最初は11連敗だったが、8件が入選した。愛知建築士会名古屋北支部が主催した建築コンクールでの入選作が「柔らかい石~東北気仙沼葦の芽幼稚園遊具設営計画」。

  復興基金を利用して被災地に遊具を提供する活動の一部。敷地は気仙沼古町の丘陵に位置し、移設される幼稚園に合わせて遊具兼展望台を建造するもの。機能は園児達がアスレチックとして利用するとともに、高い丘の上であることから復興を進める町を見下ろせるように展望台も兼ねた提案を行った。この作品は、日本建築学会が運営しているWEB版『建築討論』の7月号でも紹介される。

  コンペでは、BIMとしてVectorworks、sketchup、画像処理ソフト「GIMP」、定番のAdobe Illustrator、Adobe Photoshopを使い分けている。


□デジタルツールを徹底的に活用するため、小さなBIMから本格的なBIM運用にも挑戦□

  現実的な営業成果にすぐに結実するかは難しいが、香月氏はFacebookをメディアとして継続的に情報発信を続けている。今回の原稿執筆の打ち合わせもほとんどがネット経由だった。直近の投稿は「高円寺オフィスビルの改修計画。オフィスのデザイン・マンションのリノベーションは一通り終了。あとは外観と長期修繕計画だけどまぁこれは気長にやるんだろうな」。香月氏の人的ネットワークは急速な広がりを見せている。

  BIMについては新たなチャレンジを開始した。本連載の鴻池組の設計部門でのケースで紹介した「GROOBE」(福井コンピュータ)を導入し、中規模・大規模な建築物への対応も可能とするべく、所内の環境整備、スキルアップを図っている。

  次回は、その鴻池組の記事掲載もきっかけとなり、活動を活発化している関西J-BIM研究会について報告する。

  〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)