BIMの課題と可能性・21/樋口一希/BIMの「具体的な実利」とは

2014年6月19日 トップニュース

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BIMを取り巻く環境は大きく変化し、公表+報告できる事例も数多く、集まってきている。今回は、BIM運用の状況を更に掘り下げるため、これまでの調査、取材活動を取りまとめ、新たな展開も俯瞰する。


□執筆の主眼はBIMの「できる」ではなく「具体的な実利」を定量化すること□

BIMソフトベンダーは、BIMの「できる」を喧伝する。現実的には、建築工程を2次元図面(データ)が流通し、事足りているから、BIM導入の必要はないとの意見も聞こえてくる。そんな状況へインパクトを与えるために、BIM運用の「具体的な実利」を定量化して報告すべきだと考えた。

初回は、建築工程の最川下のファシリティー・マネジメントとBIM連携。大成建設と日本IBMは既存建物を対象に、ライフサイクル・コスト算定を行い、コストの約10%から20%の削減が見込めるとした。BIM導入の恩恵が建築内部だけでなく、施主にも及ぶことを明らかにした意義は大きい。

清水建設の施工図部門はBIMを躯体BIM=施工図作成の領域に活用。2次元で施工図を描くのと、BIMで3次元データを入力し2次元の施工図を作成するのとでは、よほど複雑な躯体形状でなければ、使用しているBIMツールの機能範囲内で、コストがほぼ同じとの結果を得た。

鴻池組の建築設計部門でのBIM運用。BIMソフトで構築した3次元モデルから設計者が必要とする各種図面の7割程度が生成できると実証。残りの3割は設計者が加筆、修正していくが、図面1枚あたり平均すると、最短では30分ほどの作業時間となり、作図業務の大幅な省力化が可能となった。


□3次元建物モデルと2次元図面(データ)を包含してBIMモデルと考える□

取材を進める中で、BIMとの連携による2次元図面(データ)の有用性を再認識することとなった。

2次元CADソフトでは図面作成が目的であり、成果物は2次元図面だ。設計者の意識は、2次元図面+デジタルデータ=2次元の建物モデル構築へと変化し、そのベースの上にBIMソフト導入が行われている。

BIMソフトでは、2次元図面(データ)の符牒部分=暗黙の了解=記号・標記などは入力しない。2次元図面だからこそ表現でき、工程間を流通する記号・標記もある。それら3次元と2次元を包含して日本的なBIMモデルと考えるべきだ。一方で、3次元モデルと2次元図面の標記を組み合わせた「表現」も可能となるかもしれない。


□施主の側からBIM採用の打診も 社会システムの変革へと向かうBIM運用□

企画段階から設計施工を経て、竣工後のファシリティー・マネジメントに至るまでBIMモデルは長期にわたり、援用できる。一方で、BIM運用には多大のコストが必要だから、前述したようなコスト削減メリットも含め、金主である施主への説明も必須だ。これまでメディアには施主がBIMをどのように考えているのかは公開されていない。現在、取材中の事例では施主側からBIM採用の打診があった。状況はそこまで進展している。

掲載している図(抜粋)は、ある組織から検討途上のデータであるとの前提で提供されたもので、話題となっている「BIMマネージャー」以外にも、BIMにまつわる様々な職能が表記されている。海外ではBIMは建築内部だけでなく、社会システム全体に及ぶイノベーションを担っている。それら新たな動向も報告していく。

〈アーキネット・ジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)