BIMの課題と可能性・29/樋口一希/金沢工業大学におけるBIM利用実態の調査研究・3

2014年8月21日 トップニュース

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 金沢工業大学大学院建築学専攻の下川雄一准教授らは、学生ともども、同校の非常勤講師を務める建築家の吉村寿博氏、地域の有志とコラボレーションする中で、BIM(ArchiCAD:グラフィソフトジャパン)も援用した実物件建設プロジェクトへの挑戦を続けている。


 □建築家による直接的な指導のもと建築について語り合いながら設計案のレベルを高める□

 金沢市内の英会話教室の校舎新築。施主は学生参加のプロジェクトであるのを理解してくれているとはいえ、リアルな資金も投下される。同プロジェクトは既に学窓を離れ、実践・実務段階へとテークオフした。

 施主ヘの1回目のプレゼンのために用意された設計案は5案。吉村氏はプロの建築家として、個々の設計案を施主へプレゼンできるレベルまで到達させるために学生たちと徹底的に議論を続けた。学生たちは経験豊富な建築家から直接的な指導を仰ぐ稀有(けう)な機会を得た。


 □模型・平面図・BIMそれぞれの特性を活かして施主へのプレゼン効果を高める□

 施主に説明し、施主と議論するために用いたのは模型、平面図(およびパース・立面図・断面図)、3Dウオークスルーモデル(BIMxデータ=※)。それぞれの手法が特性を補い合い、施主への効果的な説明ができたとの実感を得た。

 異なる3種類のツールごとに、施主の理解がどのように進んだのかは興味深い。

 模型では建物の『立体的な全体構成』への把握が明らかに深まった。平面図は建物を構成する個々のスペース・部屋間の関係など『間取り』を理解するのに依然として有効であった。BIMによって作成された3次元モデルを用いたウオークスルーでは『建物内部の見え方』が疑似体験でき、好評を博した。

 ※BIMx=iPadなどのタブレット端末でArchiCADによる3次元建物モデルを閲覧できるグラフィソフトジャパン提供のアプリケーション。3Dウオークスルーに威力を発揮する。(http://www.graphisoft.co.jp/bimx/)


 □実在の施主にBIMによる設計案を直接ぶつける中で再認識した模型・図面の重要性□

 BIMは設計検討のための一ツールとの考えから、当初、学生たちに使用は強制していなかった。設計案の検討を繰り返すうちに、BIMを使用していない学生たちもBIMの有効性に気付き、BIMを使い始めていった。

 BIMによって3次元でデザイン検討ができ、3次元+2次元のデータの整合性も確保できる。3次元建物モデルと矛盾のない2次元図面が作成でき、しかも図面作成の効率は飛躍的に向上する。

 2次元図面の作成ではBIM特有の設定が必須で、学生たちには戸惑いもあったが、それらノウハウも習得し、『建築図面』としての表現も洗練されていった。

 設計案の検討やプレゼンを進める中で、学生たちにとって3Dウオークスルーが当たり前の手法として認識されつつある。その一方で、模型の重要性、2次元図面の役割も再認識された。

 8月初旬には施主への2回目のプレゼンが行われ、プロジェクトは着々と前進している。今後も本稿において進捗(しんちょく)状況を報告していく。

 〈アーキネット・ジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)