BIMの課題と可能性・35/樋口一希/建築主にとってのBIM運用・1

2014年10月2日 トップニュース

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 日建設計と竹中工務店がBIM運用でチームを組み参画した学校法人北里研究所の新大学病院(相模原市)プロジェクト。14年5月7日のオープンを受けて北里大学病院へのヒアリングから取材はスタートした。


 □建築主(北里大学病院)の側がBIMの有効性を事前に認識してBIM運用を打診してきた□


 日建設計への事前調査で、北里大学病院側から「BIMを採用して欲しいとの要望」があったのを確認した。建築主はBIM運用の最も重要なプレーヤーでもあるが、その意向が建築専門メディアで公になるケースはほとんどない。オープンから2カ月が経過し、新病院も本格稼働し始めた7月、新病院事務局を訪ねた。

 「プロジェクト参入を目指し、接触してきた建設業者にはBIMのメリットを訴求してくるものもあった。プロジェクト担当者も国内外の病院建築などの事例を調べる中で、建築主にとってのBIM運用のメリットに気付き始めていた。

 看護に必要な稼働スペース、医療機器の設置・配置環境、関係者の動線などは図面だけで確認できない。院内で働くさまざまなスタッフとの合意形成に際してBIMによる『見える化』は大きな効果があった。

 新病院のテーマは『成長する病院=医療を取り巻くさまざまな外部環境の変化の中で、自ら成長し続ける病院であること』。今後、40年近く稼働するのだから、施設管理面でもBIMによる3次元データは必要不可欠。壁の中の設備配管などが視認できたのは新鮮な驚きだった」。新病院プロジェクト本部副本部長を務めた北里大学病院副院長・経営・新病院・広報担当の渋谷明隆氏は、こう振り返る。

 「BIM採用への要望」を受けて、日建設計では基本設計段階からBIMを導入した。


 □新病院プロジェクトで蓄積したノウハウ・経験を基に特記仕様書でのBIM運用明記に至る□


 オートデスク社のウェブサイトに、建設中のさいたま赤十字病院(埼玉県さいたま市)でのBIM運用に関する情報が掲載されている。

 そこには「日建設計は、発注者の日本赤十字社に工事の発注条件として、施工時に『3D総合図の作成』を義務づけることを提案した。日本赤十字社は了承し、工事入札の特記仕様書に盛り込んだ」(一部抜粋)と記されている。

 「(BIM採用を)特記仕様書に盛り込む」に至り、設計者・施工者協働によるBIM活用に取り組んでいるのが、医療施設の設計を数多く手掛ける日建設計の医療チームだ。


 □BIMモデル構築を施設整備における事業費と捉え、いかに建築主の理解を得るのか□


 北里大学病院の新病院プロジェクトでは、関係者間で合意に至るには時期尚早であり、「BIM採用」について仕様書などのドキュメントには残していない。さいたま赤十字病院のケースでは、見積もり図書にも「BIM関連項目」を明記し、建築主に提示、了解を受けている。

 膨大なBIMモデルを誰がいかに入力し、運用管理し続けるのか。そのための費用を建築主に提示し、事業費の一部として考えてもらうのか。それらはルール化されておらず、本事例とは異なる方針でBIM運用する組織もある。

 いずれにしろ、建築主も交えてBIM論議が本格化する段階となったのは確かだ。

 次回は、竹中工務店、サブコンの立場からのBIM運用の実際について報告する。

 〈アーキネット・ジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)