BIMの課題と可能性・37/樋口一希/建築主にとってのBIM運用・3

2014年10月16日 トップニュース

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 基本設計・実施設計での日建設計と竹中工務店とのBIM協働が施工段階へと進展し、課題と可能性が浮き彫りとなる中で、両社は本格的なBIM運用への新たな道標を得るに至った。


 □施工段階でのBIM運用では納まりも熟知した建築的なBIM要員(オペレータ)育成が課題□


 実施設計での3次元モデルを施工BIM+施工図作成に援用しようとしたが、課題が顕在化した。施工図の中心である総合図だけでも、1フロアでA1図面が16~20枚も必要な大規模なプロジェクトだ。施工図に必要な納まりを加えて、現場進捗に合わせて迅速に大量の図面を作成する必要があった。

 新病院プロジェクトが進行していた12年12月段階では、BIM(Revit Architecture)に習熟し、施工段階での納まりも熟知した要員の育成が進んでいなかった。そこで実施設計段階の3次元モデルからAuto CADの2次元データを生成し、2次元CAD上で施工図を作成した。

 竹中工務店では、本プロジェクトで培った経験を基に、今後のプロジェクトでのBIM運用を睨んで、社内および協力会社でのBIM要員の育成、技術・ノウハウの蓄積と共有のための態勢を構築しつつある。


 □関係者の空間理解度・情報共有度が向上 施工段階でのBIMモデルの有効性を再確認□


 コア&シェルを変えないという設計の基本方針があったので、設計段階での検討が施工段階で大きく変わることはなかった。建築躯体の3次元化により、設備においては、3次元モデルが複雑な部分の干渉チェックなどの調整に利用された。

 「施工段階では、コミュニケーションツールとしてBIMを活用した。建築主、設計者、サブコン等の関係者に空間を理解してもらうことは、複雑な病院建築を作り上げる際には、必須である。建築専門家でも2次元図面で複雑な建物形状を理解するのは難しい。限られた位置でのみ作成される断面図も、3次元モデルがあれば、どの部分でも切り出せる。3次元モデルを用いることで、複雑な部位であるほど関係者の理解度は高まる。施工段階での『BIMによる見える化』は建物品質の向上に貢献するとの認識を深めた」(竹中工務店作業所長・細田英一氏)


 □《建築×IT×情報マネジメント》への知識が求められる今後の本格的なBIM運用□


 基本設計から実施設計に至るBIM協働が可能となった背景には、「Revit Architecture」のシステム特性を熟知したBIMマネジャー(3Dイノベーションズ)の存在がある。

 400MB・1ファイルのBIMモデルに複数のスタッフがアクセスし、モデル構築と修正を行うためには個々のスタッフの作業ごとにデータの一部をワーキングファイルとして切り出す。

 特定の2次元図面(データ)を作成する際には建物全体のファイルにアクセスする必要はなく、目的のデータのみにアクセスすれば良い。それら目的に応じてワーキングファイルを切り出し、部材データのグループ化構造を定義するなど、BIMデータを効率的に構築するためのルール策定からスタッフへの周知徹底、トレーニングまで担当した。

 また「Revit」のエキスパート(テクノロジスト)の派遣、ファミリやテンプレートの整備、モデリング支援を行った。

 「BIM先進国では職能がBIM Manager、BIM Coordinator、BIM Modeler、それよりも職階も高く、報酬面でも優位なVDC(Virtual Design & Construction)Manager、VDC Coordinator、BIM Consultant、BIM Technologistなどと体系化されてきた。特に建築主とのコミュニケーションを司るVDC Managerの存在は欠かせない。今後は、それら職能が活躍できる組織・機構の整備、新たなBIM IT戦略の創造が必須であり、合わせてBIMに携わる人材には《建築×IT×情報マネジメント》の知識が求められる」(3Dイノベーションズ代表取締役・井上淳氏)。


 〈アーキネット・ジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)