BIMの課題と可能性・38/樋口一希/泉俊哉氏の「Small BIM」・1

2014年10月23日 トップニュース

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 『大江匡のデジタル・スタジオ』(日経BP社、著者・大江匡、泉俊哉)。刊行は98年2月。16年余を経て泉俊哉氏(サムコンセプトデザイン一級建築士事務所代表取締役)と再会した。独立系事務所として徹底追求している「Small BIM」について報告する。


 □90年代初頭に出会ったMiniCadの3次的な概念=表現手法にBIMの萌芽を見ていた□


 日本大学生産工学部建築工学科在籍中にBIMソフト「Vectorworks」(エーアンドエー製)の前身であるMiniCadに出会った泉氏は、91年4月に建築家・大江匡氏が主宰(現会長)するプランテック総合計画事務所に入所、所内のCAD化を推進した。MiniCadは2次元CADシステムだが、グラフィックス機能に強いMacintoshの特性を活かし、当時から3次的な概念=表現手法を持っていた。

 「今から考えれば、ポンチ絵のように拙いものだが、MiniCadで3次元CGパースを創り、クライアントへのプレゼンテーションに用いていた。3次元CGパースは、クライアントへの『見える化』に優れた効果があるのは実感していた」(泉俊哉氏)。

 同事務所の副所長を経て退社した泉氏は、00年4月にサムコンセプトデザイン一級建築士事務所を設立、それ以降も建築設計のデジタル化に挑戦し、現在に至る。


 □小規模の独立系事務所だからこそBIMの3次元モデルを徹底的に活用するSmall BIMを追求□


 ゼネコン、組織設計事務所では、デジタル情報の高い可用性・流通性+進化するネットワーク環境によって、社内外もシームレスとするネットワーク型のBIM運用が実現しつつある。BIMは規模の論理に適合しているともいえるが、一方で、小規模な独立系の組織だからこそBIM運用のメリットが発揮される局面もある。

 独立後、厳しい競争を勝ち抜き、クライアントの信頼を得るために、デジタルツールは設計実務面で威力を発揮した。それら実利も追求する中で、MiniCadの「3次的な概念=表現手法」にこだわり続けた。

 「私のように妻と二人で経営している事務所でも、BIMによって2000平方メートル規模の建物まで対応できる。自らの立ち位置から、いかにして3次元モデルをさらに徹底活用するのか。Small BIMの追求が新たなテーマとなった」(泉俊哉氏)。


 □700平方メートルほどの保育施設でBIMでの3次元モデル構築からスタート→図面作成への挑戦□


 現状における建築設計では、実務の最たるものとして、膨大な図面を作成する必要がある。ソフトベンダーがBIMを喧伝し始めた頃から、3次元モデルの有効性と共に、2次元図面の(自動)作成能力に着目していた。

 BIMの機能向上で、極限まで3次元モデルを創り込むことは可能だが、「できる」と「使える」は決定的に異なる。設計工程に合わせて必要とされる2次元図面を効率的に作成し、干渉チェックを含む情報の整合性を確保するためには、BIM側でのLOD(Level Of Development:Level Of Detail)の設定が不可欠だ。

 「現在、700平方メートルほどの保育施設の設計が佳境を迎えているが、その案件では、BIMによる3次元モデル構築から全ての設計行為をスタートした。2次元図面が不可欠という実利と、MiniCadで出会った3次的な概念=表現手法で対象建物をデザインするというこだわりがようやく融合しつつある」(泉俊哉氏)。

 〈アーキネット・ジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)