BIMの課題と可能性・40/樋口一希/泉俊哉氏の「Small BIM」・3

2014年11月6日 トップニュース

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 「管理する保育」から「見守る保育」へ。BIM「Vectorworks」(エーアンドエー製)を徹底活用して、設計の射程距離を「保育園という施設の設計だけではなく、保育そのものの設計」にまで伸ばした泉俊哉氏(サムコンセプトデザイン一級建築士事務所代表取締役)。BIM採用にはより現実的な判断もあった。


 □2次元図面作成機能が実務レベルに達したのでBIMでの3次元モデル構築からスタート□


 700平方メートルほどの保育施設の設計では最終成果物としての2次元図面だけでもA3出力換算で約80枚に及ぶ。ハードウェアなどの進化でBIMによる3次元モデル構築=「3次元で考え、デザインする」ことが現実となったが、行政への対応、施工業者との情報交換などで2次元図面は必要不可欠だ。

 今回、2次元図面から着手せず、3次元モデル構築から設計をスタートしたのは、BIMの2次元図面の生成機能がようやく実務レベルに達したからであった。

 「設計者は建物を立体的に捉え、ごく自然に空間を3次元的な『虚』として把握している。これまでは頭の中で3次元を無理に2次元(図面)に変換していた。BIMによって3次元モデルと2次元図面との関係を明確化することで、設計品質と図面作成能力が共に高まる」(泉俊哉氏)


 □BIM運用で設計変更+図面の加筆・修正+検図という繰り返し実務を定量的にも削減可□


 自社仕様の図面表現を精緻に実現するためにはBIM側での設定にコツが必要だし、3次元モデル⇔2次元図面との相互交換のタイミングをいかに捉えるかなどデジタル・リテラシーが求められる。

 それら課題を抱えつつ、BIM運用によって、小規模な独立系の設計組織でも従来は難しかった規模の設計も受注できる。飛躍的に向上した3次元モデルからの2次元図面の生成機能によって、設計変更+図面の加筆・修正+検図という繰り返し実務を定量的に把握できるほど削減できるからだ。従来であれば、今回の設計案件では、図面作成に関して外注組織に依頼していたかもしれない。

 「3次元モデルから自動生成した2次元図面は約8割の完成度で、加筆・修正は残り僅かであった。実務面での効率を高め、本来の設計・デザインの質を向上し、いかに受注にも結びつけていくか。BIM運用を突き詰めると、独立系の事務所として新たなビジネスモデルをいかに再構築するかが問われてくる」(泉俊哉氏)


 □BIM運用で設計情報の質を高めて施工へと近接=独立系設計組織の存在意義を高める□


 新国立競技場を巡って表面化した「技術協議方式」。「工事を着実に進めるため、実施設計段階から施工予定者が設計に関与する」方式。競技場整備に東京都が採用するという「デザインビルド(設計・施工一括発注)方式」。実施設計は施工を担う建設会社へという動きだ。背景には明らかに高い可用性、流通性を持つBIMによるデジタルデータの存在があるだろう。

 独立系の設計組織はどのように立ち向かうのか。取材を通してヒントを見つけてみた。工程のさらなる最上流に向けて、BIMを徹底活用し「施設の設計だけではなく、保育そのものの設計」へと射程距離を伸ばしたこと。工程の最下流へと肉薄するべく、屋上に設置する遊具をBIMで「プレ・ファブリケーション」したこと。

 「施工業者に遊具の3次元モデルを提供したが、コストの明確化と工期短縮に結びついたと好評だった。BIMを用いて施工に近接した実施設計を実現する。施工業者とのコミュニケーションの質を改善することが設計事務所の存在意義を高めるはずだ」(泉俊哉氏)。

 〈アーキネット・ジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)