BIMの課題と可能性・42/樋口一希/東芝エレベータのBIM運用・2

2014年11月20日 トップニュース

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 エレベータ、エスカレータの製造工程を3次元CAD・CAMへと移行することで実現した3次元化メリットを、顧客へのBIMモデル提供に結びつけるため、最初に着手したのは社内体制の構築、整備であった。


 □BIM化に向けて設けた推進組織が担うBIM教育によって広く社内に「見える化」効果波及□


 工場での設計工程で作成した3次元モデルを建築用のBIMモデルに展開するためには、BIMソフト(Revit・ArchiCAD)を用いてプレ・ファブリケーションする。BIM化へ取り組むため立ち上げた推進組織は、BIMソフト習得に向けた社内教育も担っている。

 設計技術者も建築用のBIMソフトの習熟度を高め、エレベータの1分の1のリアルデータによる製造系と建築系の3次元モデル(データ)の間に介在する特有のLOD(Level Of Development:Level Of Detail)への理解を深めていった。

 営業担当は自社製品のプレゼンテーションの実を上げ、セールスエンジニアは顧客サポートの質的向上を実感していく。現場をまとめる担当者は調整作業の効率化を現実のものとした。ベテラン技術者の技術ノウハウは若手へと継承され、BIMによる「見える化」の効果は社内に認識されていった。


 □設計支援で床・壁などとエレベータ設置のための〔虚=空間〕との関係の明確化が実現□


 BIM運用の社内体制構築を受けて顧客への設計支援、施工支援を本格化する。設計支援は極めて実際的だ。添付図で設計支援の具体例を検証する。

 従来は、本体と共に重要な昇降スペース、床開口領域などの情報を2次元の平・立・断図面で提供していたが、経験豊富な設計者でも、床、壁などの『実体物』とエレベータ設置のための『虚=空間』の関係は把握が難しかった。

 図のように納まり検討に必須のガイド線分が付与されているので、『実体物』と『虚=空間』の関係は一目瞭然で、設計者が類推する余地をなくして、ケアレスミスを大幅に減らせる。

 合意形成のルールも明確だ。BIMモデルを『真』とし、図面は『成果物』。検討事項は付随するドキュメントで補足し、BIMモデル内に要求事項を直接、反映していく。製造し終わったエレベータが現場で納まらないでは工程全体に支障をきたす。設計段階でのBIMモデル提供で早期に問題点を洗い出すなど質の高い顧客サービスに結実している。


 □不適合操作をすると図面上に注意喚起マークが現れるプログラムをBIMモデルに仕込む□


 3次元のBIMモデルは、関連する2次元図面、プロパティ(属性)情報も合わせて提供される。

 さらに注目できるのは、BIMモデルの中に、チェック・プログラムを仕込み、設計者が不適合操作を行うと、図面上に注意喚起マークが提示される点だ。

 エレベータ、エスカレータは標準的な部材によって製造される既製品に近い設備=装置と考えがちだが、一品生産の建物に対応するべく、多くはセミオーダーだ。個々のオーダー部分への対応は、設計事務所や建設会社と情報共有し、合意形成の確度を高められる3次元のBIMモデルの採用によってより進化した。

 〈アーキネット・ジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)