BIMの課題と可能性・59/樋口一希/ホームビルダーのBIM運用・1

2015年4月2日 トップニュース

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 戸建て、マンションなど住宅を中心に商品企画、設計・施工、販売、不動産管理から修繕までを一貫して手掛ける沖縄の地域ビルダー、環(たまき)ハウスグループのBIM運用を報告する。


 □雇用確保と地域振興目指す沖縄のBIM拠点化「ものづくり支援」事業もBIM化を後押し□


 BIMソフトベンダーの多くが沖縄でセミナーを開催している。鹿島はアジア戦略をにらみつつ、沖縄BIMセンターを設けている。一般社団法人IAI日本が主宰して、限られた時間内で建築プロジェクトの課題に取り組む参加・体験型のイベント「Build Live Japan 2014」では沖縄県石垣島が課題対象として選ばれ注目を集めた。BIM状況の急速な進展が見られる沖縄。BIMの技術拠点を沖縄に定着させ、雇用確保と地域振興を図るとの官民を挙げての強い思いが背景にあるに違いない。

 沖縄県地域事務局による「平成25年度補正・中小企業・小規模事業者ものづくり・商業・サービス革新事業」の採択案件一覧。環ハウスグループの中核をなす環ハウスの名前があり、事業計画名には「BIM建築設計システム運用の高度化」と記されている。環ハウスでは、通称「沖縄県のものづくり支援」事業から補助金を受け、意匠設計部門からのBIMソフト(GLOOBE:福井コンピュータアーキテクト製)運用を本格化させている。


 □BIMのメリットの最大化のため2次元CADから意匠設計部門でのBIM運用へ本格的に転換□


 設計部門、施工部門ともにフリーの2次元CADソフトによる現業態勢が確立されていた。本格的なBIM運用に向けたロードマップを創り、全社的に活動を開始したのは約4年前。15年に入り、BIM運用をより一層、加速化している。現在は設計部門でのBIM運用を追求する中で、構造、設備などの協力設計事務所、自社の施工部門との連携強化に努めている。

 工程最上流の商品企画、営業部門へのBIMの援用効果はすぐに実感できた。単独のプレゼンテーション・ツールを用いることなく、BIMと連動する中で、高度なレンダリングを施した3次元パース、動画も提示できる。顧客との打ち合わせ時にはBIMソフト上で2次元図面+3次元モデルを確認しながら合意形成を図る。コミュニケーションの質的改善と時間短縮が実現した。

 構造設計ではSIRCAD(ソフトウェアセンター製)、設備設計ではCADWe’ll Tfas(ダイテック製)とGLOOBEとの親和性に優れるソフトを選択し、協力設計事務所との連携を強化している。

 建物の3次元モデルによる「見える化」効果は施工部門との工程会議でも実効性を発揮する。専門家同士でも2次元図面での検討では曖昧さが残るが、3次元モデルでは重点的に検討すべき課題点が前倒しでつぶせ、手戻りが減らせるからだ。


 □グループ全体の事業ドメインを貫き情報共有と見える化を実現する経営資源としてのBIM□


 先代から事業を引き継いだ現社長は、当初、マンションの販売を担当、環グループ全体の業務の流れを最も顧客に近いポジションから逆算して検証していた。4年前から設計部門も統括する中で、2次元CADによる情報のデジタル化は、合意形成の曖昧さと手戻りの多さでコストパフォーマンス+価格競争力の低下にも結びつき、限界を迎えている。商品企画、設計・施工、販売、不動産管理から修繕までの全事業ドメインを貫き、情報共有と業務の見える化のためにはBIM運用が必須との結論に達した。

 「設計部門でのBIM運用の実効性を実感する中で経営の立場からグループ全体を俯瞰すると、BIMが優れた経営資源なのは明らかだ。『沖縄県のものづくり支援』事業からの支援も活用し、一挙にBIMソフト導入を進めるため全職員へBIMの必要性を説き、全員で一丸となり、ベクトルの修正を果たした」(環ハウス代表取締役・玉城貴之氏)。

〈アーキネット・ジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)