BIMの課題と可能性・70/樋口一希/教育現場でのデジタルツール活用・3

2015年6月18日 トップニュース

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 BIMソフトのブラックボックス化も危惧されている。建築的な修練が乏しくとも、図面が「それなりに」できてしまうからだ。それらの課題を解決するべく福井工業大学工学部建築土木工学科におけるBIMソフト演習授業での知見を報告する。


 □現場から聞こえてくる建築的な経験や修練がないままBIMソフトを使うことの問題点□


 情報交換しているFacebookの「友達」の何人かは建築関係の教育機関でBIMを教えている。「木造住宅の屋根伏図さえ描けず、梁伏小屋伏はさらに疑問符がつく。そういう状態でBIMを使わせて良いのだろうか?」と現状を嘆いている。現業では2次元図面(データ)が流通しているが手描き図面はなくなった。手描きの製図演習があるのは、建築士の製図試験のためだけなのか。この疑問に業界内部から答えるのは難しいようだ。

 2次元CADの普及期に「身体を動かして製図板で描くから縮尺が身につく」「手描きの線には意味がある」と設計者は語った。編集者として、その矜持は理解できるがBIM状況の深化の中で重要視すべきは、BIMの〔I=information〕がデジタル化された〔I〕であり、単なるツールの代替わりだけでなく、業務プロセスのパラダイム転換が起こりつつあることだ。

 ▽図学や製図法は必須。それに則って作図する手法が手描きか2次元CADかの違いだ。現業からすると、手描き製図は不要。建築士試験時に徹底して慣れれば良い。

 ▽設計時に要件をまとめ、現場で納まりを確認するなど3次元的に対象を捉えるスケッチが描けるのは必須。

 取材先の設計事務所や建設会社で製図板を見かけることは皆無となった。このあたりを最大公約数と考えてよいのだろう。


 □図面作成のルールを基に2次元図面(データ)とBIMの3次元モデルの相関性を理解□


 BIMソフト「GLOOBE」は2次元図面の作成機能に優れ、設定によっては7~8割程度の満足度で実施図面が作成できると評価は高い。教育現場でBIMソフトを使用する際の課題はこの先にある。

 2次元図面には工程間をつなぐメディアとしての共通ルールがあリ、それを理解しなければ図面も描けず、モデルも構築できない。BIMソフトをブラックボックス化させないためには、2次元図面(データ)とBIMによる3次元モデルとの相関性を学生に十分に理解してもらう必要がある。

 「図面作成の共通ルールはもちろん、1本の線が実際の建物の何を表しているのかを理解せずに、CAD操作のスキルばかりが上達しても意味がない。BIMソフトを使用しての図面作成は、建築の細部を理解した操作が必要で学生にはハードルが高い。授業では学生の進捗を見ながら現場写真やスケッチなどで実務の理解を深めつつBIMソフトを運用している」(五十嵐啓・福井工業大学工学部建築土木工学科准教授)。


 □実学として常に社会の動向とリンクしながら地域に根差した産学協同のあり方を追求□


 高速で常時接続のネット環境は当たり前、スマホで連絡を取り合い、テレビ視聴や新聞購読もデジタル機器で行う。そんな環境の中で生活している学生たちは、最新技術への感度も高い。

 3次元曲面による複雑な形状の建物の設計に用いる「コンピュテーショナル・デザイン」手法。学生有志はグループで、話題のソフトウエア「Rhinoceros(ライノセラス)」とプラグインソフト「Grasshopper(グラスホッパー)」の試用にもチャレンジしている。BIMソフトなどで作成した建物モデルを出力する3次元プリンターも利用できる。実学としての建築土木工学は常に社会の動向とリンクしている。学窓を巣立った後の活躍を期待しての環境整備だ。

 厚生労働省の15年度「大学等卒業者の就職状況調査」によると大学卒業者の就職率は94・4%と前年同期より0・5ポイント上昇。同大学のホームページでも「大学全体の就職率98・4%(15年3月卒業者)、卒業者の60・3%が北信越地域で就職」するなど地元からの期待も大きい。地元の建設会社や設計事務所と関係の深い福井コンピュータアーキテクトからはインターンシップへの参加情報も寄せられている。地域に根差した産学協同の今後に注目したい。

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)