BIMの課題と可能性・74/樋口一希/東畑版IPD方式の模索・3

2015年7月16日 トップニュース

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 BIM運用をより深化させるため、東畑建築事務所は12年、本社・大阪事務所内にBIMチームを設置した。東畑版IPD(Integrated Project Delivery)方式による実施案件での建設会社とのBIM協働に至るBIMチームの活動を中心に報告する。


 □実施設計図作成の労力と時間の短縮+プレゼン能力の向上を目指し新たなBIMの検証開始□


 BIMチームでは3次元モデルから実施設計図を生成する労力と時間をより短縮するため、BIMソフト「GLOOBE」(福井コンピュータアーキテクト製)の検証も開始。作図能力が高いという評価を裏付けるように、詳細仕様の自動記入機能など、図面生成に特化した優位点を検証している。

 Piranesi(インフォマティクス製)のプレゼンテーション能力も検証。Piranesiは、RevitやGLOOBEの3次元モデルを読み込めるなどBIMソフトとの親和性が高いだけでなく、レンダリングとペイントを同時に行うため短時間で写実的なパースを制作できる。

 新人研修のオプションプログラムとして「リアルウォーカー」(福井コンピュータアーキテクト製)で鉄骨造、平屋、7053平方メートルの某商業施設のアニメーションを作成した。3次元モデルを「リアルウォーカー」に読み込み、視線移動時の始点+中間点(複数可)+終点の画面を決めると、自動的にアニメーションを生成してくれる。BIM初心者の若手設計者でも従来の2分の1程度の短時間で本格的なアニメーションを完成させた。


 □基本設計発注のタイムリミットが迫る中で必然となった建設会社とのIPDでのBIM協働□


 13年、実施案件として東畑版IPD方式を初めて適用したのがJA姫路支店だ。建築主側には次年度からの消費増税対策として9月末までに工事請負契約を完了させる必要があり、急遽、基本設計発注が決定した。タイムリミットが迫る中、BIMによるフロントローディングを行い、建設会社と協働することが必須となった。

 建設会社と締結された契約書『BIM協働支援』には、次のように明文化されている。

 「受注者は、契約後、実施設計段階から工事着工までの期間において、設計者が作成した『BIM設計モデル』に対して、生産設計、施工技術等の観点から、設計及び施工に有益な提案を行い、設計者が承認した内容について、情報を入力し、『BIM設計モデル』を統合すること」。

 本事例で最も重要なのは、この条項に続き、「(前略)必要と思われる費用については、その一部を設計者が負担する場合がある」と明確に規定されていることだ。秘匿情報のため金額は特定できなかったが、取材を通じて初めて明らかとなったBIM協働の実際だ。厳しい時間的な制約の中でBIMソフトが威力を発揮し、東畑版IPD方式の高い実効性を証明する事例となった。


 □建築主も建設会社と設計事務所の関係に関心を持つ中でBIMを対立軸とせずに協働する□


 14年には、新たな実施案件において建設会社とのBIM協働の射程を生産設計、施工現場支援の領域まで伸延している。設計事務所の主導で建設会社との協働の下、設計監理者、BIMマネージャーとして『設計BIMモデル』をいかにして『施工BIMモデル』に援用するのかの挑戦を続けている。

 連載58「深化する施工図事務所の職能」では、設計事務所のコンストラクション・マネジメント部門からアートヴィレッヂへ接触があり、背景には設計事務所が「設計と施工を架橋する」施工図事務所の職能を業務プロセスの中にフロントローディングし、優位性を確保する意図があるのではないかと報告した。

 週刊ダイヤモンド6月13日号「対立する設計事務所とゼネコン」では、実施設計段階での両者の対立の構図が図示されていた。経済誌が本テーマを取り上げた背景には、建築主の関心が建築業界の動向に集まっているとの認識があるのだろう。

 2020年以降の市場動向を俯瞰しつつ、設計施工を柱とする建設会社との間で、BIM運用を対立軸とすることなく、設計事務所としてどのように協働していくのかが問われている。

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)