BIMの課題と可能性・77/樋口一希/設計・施工部門間のデジタル連携を深化させるフジタの試み・3

2015年8月6日 トップニュース

文字サイズ

 『施工BIMのスタイル』(日本建設業連合会刊行)では、BIM運用のメリットを、QCDSE=品質(Quality)・コスト(Cost)・工期(Delivery)・安全(Safety)・環境(Environment)を基準として概説している。フジタが掲げ、検証を続けているQCDSEの指針を通して建設業にとって最も重要な生産拠点、施工現場でのBIMによる「見える化」の効果を報告する。


 □◇Q=品質の見える化-2次元では困難だった納まり・取り合い確認□

 建築物は多くの場合、一品生産であるが、現業的には標準化され、プレ生産された膨大な部材・部品からなるアセンブリ産業でもある。BIMによる3次元モデルの有効性は、それら部材・部品間の納まり検討だけでなく、施工時の仮設物との干渉を確認する点で有効である。

 ・建築と設備(給排水・電気・空調)の干渉確認

 ・専門工事会社の製作図モデルでの納まり確認

 ・躯体工事と構台・足場等の仮設物の最適配置の決定


 □◇C=コストの見える化-早期かつ正確に先回りしてコスト把握を実現□

 施工現場において契約時の内容でそのまま施工が行われることは稀であり、多くの場合、施工中にもさまざまな変更が発生する。顧客からの要求、施工性など理由は多々あるが、変更がコストに及ぼす影響を早期に、かつ正確に把握するためにBIMモデルが活躍する。

 ・設計変更や仕様変更による数量の増減比較

 ・施工性を考慮した数量の増加(コンクリートのフカシ等)

 ・気象条件や歩掛かりによる工程遅延が及ぼす全体コストへの影響


 □◇D=工期の見える化-過去・現在・未来全般にわたる工期情報を共有□

 施工現場は、施工のプロが集まる場所であるが、担当する工種以外の作業は理解していないことが多い。BIMモデルによる施工シミュレーションは工程(工期)全般にわたる過去・現在・未来の時間を共有し、手戻りのない施工を実現するために、施工関係者の知恵を出し合う場を提供する。

 ・施工手順の確認(地下掘削と山留めの進捗・鉄骨建て方・PCa建て方・製作物の搬入調整)


 □◇S=安全の見える化-危険予知で現場職員とともに近隣の安全も確保□

 施工を円滑に進めるために安全対策は欠かせない。施工現場は日々、刻々と変化、変容していく。BIMモデルによる施工シミュレーションは施工性のみならず、安全対策もシミュレートする。

 ・新規入場者への入所時教育、作業員のKY(危険予知)活動

 ・建築の知識が少ない近隣・発注者への説明

 ・施工ヤード周辺の安全通路の可視化、構造物・埋設物への影響を可視化


 □◇E=環境の見える化-個別の現場環境とともに社会的な要請にも対応□

 設計段階での建物のBIMモデルと連携した環境シミュレーションは良く知られた手法であるが、施工時の環境配慮も建設会社として重点的に取り組んでいる項目である。近隣への騒音、振動、粉塵対策はもとより、施工中に排出する産業廃棄物を減らす工夫もBIMとまったく無縁ではない。

 ・工事の騒音源と周辺状況を加味した近隣への工事騒音シミュレーション

 ・タワークレーンが及ぼす衛星放送等の電波障害の影響範囲の可視化

 ・スクラップ&ビルドからの転換を指向

 ・少子高齢化社会=市場変化への積極的対応

 BIMの高度化に向けた課題の共有も現実のものとなりつつある。業界を挙げて全体最適となるBIMへの業務プロセス改革をいかに行うのか。BIMは既に離陸し、車輪を収める段階に至ったようだ。最も危険だといわれる離陸後の5分間を多くの知見を結集して乗り切るべきだ。

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)