BIMの課題と可能性・80/樋口一希/長谷工コーポの「究極の」BIM運用・2

2015年9月3日 トップニュース

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 パンドラの箱を開け、BIMの課題を先鋭化させてしまうのか、宝箱を開け、可能性を明示できるのか。建築情報のデジタル化への挑戦を果敢に進めてきた長谷工のBIM運用の現在を「見える化」する。


 □モデルから『I』=情報を取得するのではなくあらかじめ集約した『I』=情報からモデルを構築□


 自社開発のシステム運用を経て、ハード・ソフト環境の進化に伴い、BIMソフト「Revit」(オートデスク社製)採用を検討し始めたのは11年だ。13年には自社物件で「Revit」を使用し、マンション専業メーカーとしてのビジネスモデルへの最適性を最終確認し、本格採用に踏み切った。

 一般的にBIMでは、3次元建物モデルが内包する『I=Information』=情報を抽出し、いかに運用するのかが課題となる。長谷工では、対象建築物=マンションの標準化・モジュール化を徹底追求する中で、BIM以前から、マンションの構成要素を『I=Information』=情報としてあらかじめ集約しており、それら『I=Information』=情報を逆流させてBIMに援用、3次元建物モデルを再構築できる点を「ビジネスモデルへの最適性」の判断基準とした。

 それら『I=Information』=情報をExcel上の模式化された平面図、立面図に入力することで 『基本モデル』をBIMソフト上に構築する「ATOM(Automatic Tool for Object Modeler)」も成立するし、誤差±2~3%で稼働する概算システムとも連動できる。


 □建築工程全般にわたり建物を構成する『I』=情報を援用して実現した設計・施工統合の優位性□


 長谷工は、マンションの用地取得から企画・設計・施工、分譲販売・賃貸マンションの管理・運営、リフォーム、大規模修繕、建て替えまでを総合的に手掛けている。最も重要なのは、建築工程の最初期からライフサイクル全般にわたって、連続的かつ効率的に、マンションを構成する『I=Information』=情報をBIMと連動させ、『I』=情報をより高次の『情報資産』へとパラダイム・シフトしていることだ。

 大手ゼネコンでも、設計施工の割合が概ね3割強といわれる中で、長谷工では、100%に近い(98%)設計施工比率を実現している。この優位性をさらに活かすべく設計と施工の間で情報を共有し、デジタル化した『I=Information』=情報をBIMと連動してより効率的に運用するため社内組織の革新にも着手した。

 竣工を控え、モデルルーム公開もホームページ上で広報された「ブランシエラ板橋西台」。鉄筋コンクリート造地上9階建て・総戸数80戸からなる実物件を第1号案件として、設計と施工部門を統合したBIM設計部の活動が開始された。


 □設計者が概算システムを用地取得時から運用する究極のフロントローディングを実現□


 連載33「概算見積もりソフトとBIMの連携」で検証したように、一般の建築物では、企画・計画段階では積算に必要な建物情報は極めて不十分だ。基本・実施設計と進捗するに従い、建物情報は拡充され、実施設計終了時には全体の建築工事費算定が概ね可能となるが既に遅きに失している。

 BIM以前から、マンションの構成要素をデジタル化した『I=Information』=情報として運用している長谷工の最大の優位性は、「意匠設計者が積算に必要な要素を全て描かず、必要な条件の多くは未確定だ」との課題を解決したことだ。

 意匠設計者は、用地取得(仕入れ)段階から概算システムを稼働させ、連続的に基本設計へと援用する。実施設計では施工部門をフロントローディングすることで、実施設計図+施工図の作成を同時並行的に進める。

 設計室(者)がマンション建設のコストコントロールを実践することが長谷工の優位性であり、新たな設計組織ともいえるBIM設計部は、モデル化、図面化などの設計施工における建物情報の精度向上、集約化を行う。

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)