BIMの課題と可能性・81/樋口一希/長谷工コーポの「究極の」BIM運用・3

2015年9月10日 トップニュース

文字サイズ

 設計と施工部門を統合、実施設計図+施工図の作成を同時並行的に進める、新たな設計部といえるBIM設計部の活動を開始した長谷工。100%に近い(98%)設計施工比率を実現した現在、散見できるBIMの課題と潜在する可能性について報告する。


 □設計施工の比率を極限まで高めたBIM設計部と協力施工会社を結集した「建栄会」の存在□


 専用サイトも開設された「ブランシエラ板橋西台」をBIMの第1号案件として活動を開始したBIM設計部。設計組織への施工部門のフロントローディングと相まって、特筆すべき存在として協力施工会社が結集した「建栄会」がある。協力施工会社は、BIM以前から長年にわたり長谷工との間でマンション建設に関する知見を蓄積してきた。

 誤差±2~3%で稼働する概算システムは、意匠設計者による早期の段階からの逐次的なコストコントロールを可能にするだけでなく、マンション事業者・デベロッパーに対して明確なコスト(根拠)を提示できる。

 加えて重要なのは、概算システムの援用で、仕入れ=土地取得から販売まで数年単位で先を見通した精緻な事業計画が立案できることだ。「マンションのことなら長谷工」の「究極のBIM」は、事業計画の早期立案によるマンション事業者・デベロッパーに対する営業面での囲い込み戦略に加えて、協力施工会社への安定的な工事機会の提供を可能とする。


 □パンフレットなどの販促資料から現場での合意形成にまで援用される3次元建物モデル□


 BIMソフトの3次元建物モデルによる「見える化」効果は、マンション事業の全工程に及ぶ。設計段階で作成された高精度のCGパースは物件パンフレットからWEBサイト製作にまで用いられる。建設現場では、パソコンを用いて、外部組織と共同開発したビュアーソフト「Vizit Viewer」上に施工BIMモデルを展開している。任意の断面が自在に切れ、複雑な納まりも3次元で視認できると協力施工会社から好評で、現場での情報共有と合意形成の迅速化、質的向上に貢献している。

 協力施工会社との間では2次元図面(データ)のみが流通している。BIMに特化した標記や図面の簡略化で、3次元建物モデルから生成される各種図面の完成度は約8割と満足できる水準となったが、それでも作業時間・コストを計測すると、モデル化と図面化は半々となり、図面化作業の負担は残っている。

 マンションの管理業務は、長谷工コミュニティが担当している。現状では、管理業務に特化したFM-BIMモデル構築を指向するのではなく、管理業務に必須の情報整理とコンテンツの開発を進めている。


 □デジタル化された建築情報をIoT分野などへと拡張する新たなビジネス展開の可能性□


 長谷工の現状での「究極のBIM」が何処に向かうのかをジャーナル的な近未来として描いてみる。

 マンションの構成要素=『I=Information』=情報をデータベースと連動して3次元モデル化、デジタル空間上で自動的にアセンブリ(施工)し、リアルな現場の自動化とも組み合わせる。設計施工手順の標準化を進めれば2次元図面は極限まで減らせる可能性はある。創る(設計・施工)BIMモデルを竣工後、稼働する(ライフサイクル)ためのBIMモデルへとつなげ、建築物へのIoT(Internet of Things)技術浸透へとビジネス領域を拡張できるのではないか。

 「現在の半分のコスト、半分の工期」を目指し、研究部門「Google X」開発の画期的な建設手法を発表した米Google(R)。14年10月15日に、米テキサス州オースチンを対象にした試用版として「Flux Metro Austin Preview」※を公開した。2020年以降、国内市場が縮小する中で建築(業)の主戦場が海を越える可能性は高いし、海外からの逆進出も想定できる。長谷工の最大の競争相手は、同業他社だけでなく、米Google(R)のように、建築(業)とIoT技術を組み合わせた新興勢力となるかもしれない。

 ※https‥//www.youtube.com/watch?v=iosoYZ_4uwE

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)