BIMの課題と可能性・85/樋口一希/Revitのカスタマイズ事例

2015年10月15日 トップニュース

文字サイズ

 9月28日、オートデスク社(本社・東京都中央区晴海)で開催のRevit最先端活用セミナー。BIMソフト「Revit」によるプレキャストコンクリートの3次元モデル+製作図の作成を効率的に行うカスタマイズ事例が発表された。その内容とともに、発注者の意向などカスタマイズが行われた背景に、BIMを取り巻く「今」が見えてくる。


 □あらかじめ専門工場で製作するプレキャストコンクリートの優位性を最大化するBIM運用□


 プレキャストコンクリート(工法)では、専用工場で製品を製作した後、施工現場へ運搬して設置を行うため、天候に影響されず、均一で高品質のコンクリート製品(建物)が得られる。

 本事例は、この「あらかじめ専門工場において」「均一で高品質のコンクリート製品」の製造工程をBIMソフトによって効率化し、設計と施工の間にフロントローディングするものだ。

 プロジェクト発注者は、グローバル・ロジスティック・プロパティーズ(GLP)。ネットショッピングが興隆する中で、世界的規模で物流施設を有し、多くの企業に物流ネットワークを提供している。GLP社にヒアリングできなかったが、当然のように物流施設では建築的にも徹底した標準化が追求され、BIM運用のメリットも知り尽くした上での発注に違いない。

 プロジェクトにはBIMコンサルタントとして、デロイト トーマツ PRSが参画、プレキャストコンクリート専門の施工会社である黒沢建設を支援している。発表は「Revit」のカスタマイズを担当したアド設計の鈴木裕二氏とBIMプランニングの小林美砂子氏が行った。


 □2次元CADを一切使用せず3次元の構造モデルを徹底的に援用して製造工程をデジタル化□


 黒沢建設では従来、技術者が構造設計図を読み取り、工場で援用される製作図を2次元CAD(AutoCAD)で作成していた。それらの製作図に基づき、専門工場では、鉄筋組み立て、型枠+鉄筋セット、プレテンション+ポストテンション(ケーブル)の設定、コンクリート打設を経て、梁・柱などのプレキャストコンクリート部材を製造していた。「Revit」のカスタマイズで、それらの工程を5工程に集約する。

 1.(構造BIMソフトによる3次元の)構造モデルをプレキャストファミリに変換

 2.一般図の作成(自動生成)

 3.(3次元のプレキャストファミリ上に)金物・アンカーをセット

 4.鉄筋・ケーブルを設置

 5.製作図=詳細図の作成(自動生成)

 これらの工程を2次元CADを用いずに「Revit」上で実行する。このようなBIMの3次元モデル=部材そのものと、製造工程の事前の「見える化」は、作業時間の短縮だけにとどまらず、「均一で高品質」な製品実現のためにメリット大だ。


 □基幹的な技術要素である〔API+ファミリ〕双方への知見を結集して実現したプロジェクト□


 「Revit」を起動すると、画面上部に前述の5工程の作業を可能にするアドイン・プログラムが出現。技術者は、これらアドイン・プログラムの指示に即して作業する。

 「Revit」をカスタマイズする際に、最も重要な技術要素となるのが「API(Application Programming Interface)」と「ファミリ」である。要約すると、APIはアドイン・プログラムにみられるように「Revit」を拡張する開発環境、ファミリはAPI=プログラムによる指示に追随して挙動する3次元部材モデルであり、さまざまな属性情報を付与できる。

 柱、梁などの構造(プレキャストコンクリート)部材にドア(ファミリ)を納めるデモでは、位置の特定は勿論のこと、接合のための作業+付属資材設置も一瞬で自動完了する。プレキャストであるゆえに、施工現場で納まらないのは致命的だ。それらのリスク払拭のために施工現場での試行(フロントローディング)も行っているわけだ。プロジェクトは始動したばかりで、定量的なBIM導入効果などの情報は得られなかった。発注者側へのアプローチも含めて、取材を継続する。

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)