BIMの課題と可能性・87/樋口一希/海外のBIM事情・2

2015年10月29日 トップニュース

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 シンガポール・チャンギ国際空港でのBIM環境構築に参画したBIMコンサルタントの井上淳氏へのインタビューを再構成し、報告する。


 □コンサルの知見を総動員しチャンギ国際空港の改修・新築工事のBIMガイドラインに参画□


 英スカイトラック社が3年連続で世界一の空港としたシンガポール・チャンギ国際空港。竹中工務店が第1・第2・第3ターミナル新築工事(一部増改築工事)を手掛け、現在も第4ターミナル新築工事・第1ターミナル拡張工事を担当している。

 井上氏は学校法人北里研究所新大学病院と同様、伊東豊雄建築設計事務所の設計で三菱地所グループアジア初のオフィス事業となった「Capital Green」(15年1月竣工)の施工担当の竹中工務店を、BIM運用面で支援した。

 そのような背景から、シンガポール側で協働していたBIMコンサルティング会社と共に同空港を運営するチャンギエアポートグループ(CAG:Changi Airport Group)主宰の公開コンペを勝ち取り、直接発注でBIMのガイドライン構築に参画した。


 □全体計画・設計・施工・施設管理の各フェーズごとにBIM運用の要件を明確化し効果も設定□


 公開コンペ参加を決定したのは12年冬。確認申請業務においてBIMモデル提出が義務付けられ、CAGとしても第1ターミナル増改築工事・第4ターミナル新築工事におけるBIM運用のガイドライン確保が必須となった。具体的には、CAGが設計事務所・ゼネコン等に設計・施工発注する際のBIM版特記仕様書の整備が急務となっていた。

 ガイドラインには、各フェーズごとに目的に合わせた要件が記載されている。〔BIM for Master Planning, Design, Construction, Facility management〕=BIMのための全体計画・設計・施工・施設管理から構成。BIMの有効性として最も強調したのは、

 〈1〉数量・コストデータベースの構築によって全体計画の早い段階~購買前段階において極めて精度の高い予算が把握可能

 〈2〉As-Built BIM(竣工図書のBIM版)に基づき同空港の現状=Record-BIM(レコードBIM)を構築し、施設変更に追随してBIMデータをメンテナンスすることで施設管理の生産性向上を可能

 -とすることであった。


 □国家的規模でBIM運用を進める中でも顕在化した慎重な意見を経営トップの決断で払しょく□


 BIM導入の際、組織内での利害は往々にして輻輳する。第4ターミナル新築の担当部署。国家的規模でBIM推進の機運が高まっていたシンガポールでも、当初は新しい試みへの慎重さが目立った。BIMのメリットと現状とのギャップを分析、As-Built BIM構築=稼働後のBIM運用が目的であるのを明確化し、そのための実施優先順位を示した。

 第1ターミナルの改修担当。難題となっていたのが改修工事のための躯体状況・設備ダクトなどの現況把握。特に天井裏の状況をデジタル化するためのRecord BIM作成では、現況確認のため100カ所近い天井パネルを開け、レーザースキャナーで調査するとともに、既存建物のポイントクラウドからBIMモデル化する手法を提示し、改修のためのBIM稼働への道筋を明確にした。

 新築・改修工事担当などの現業は勿論のこと、予算管理の専門部署や経営層も対象にしたセミナーをBIMガイドライン構築プロジェクト開始直後に複数回開催。さらに、BCA(シンガポール政府建築建設局)主宰のBIMマネジメントセミナー参加がBIM導入への合意形成に寄与した。

 「民営化して3年後だったが、CAGは政府のBIM推進策を十二分に意識していた。国を挙げてさらなる生産性向上を求め、BIM推進要求が高まっている。経営トップの『コンサルが提示したBIM運用の技術的水準を根拠として、他に先駆けてでも我々はBIM導入する』との決断と提言は、CAG社内外のBIM推進グループにとって心強いものとなった」(井上淳氏)。

 次回は15年9月現在、最新の米国BIM事情を報告する。

〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)