BIMの課題と可能性・91/樋口一希/YKKAPファサードの先進事例・3

2015年11月26日 トップニュース

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 BIM運用を国家的規模で進めるシンガポールにおけるYKK AP ファサード社(シンガポール)の活動をBCA(Building and Construction Authority=シンガポール政府建築建設局)との関わりも踏まえて報告する。


 □点支持ガラスでのアウターとカーテンウオールでのインナーから構成されるダブルスキン□


 二つの巨大なドームを持つ壮大なスケールの植物園「Gardens by the Bay」。YKK AP ファサード社では、ドームを覆う3次元曲面を四角形からなる平板ガラスのみで覆い尽くすという最適解を、3次元モデルでのジオメトリ検証を通して見出した。これらの経験と知見は、建築家・伊東豊雄氏の基本設計、竹中工務店の設計・施工で竣工した高さ242メートルの超高層オフィスビル「CapitaGreen」での本格的なBIM運用への布石となった。

 「CapitaGreen」では、外装に断熱性の高いセミダブルスキン(Urban Fasade and Green Fasade)の採用=点支持ガラスで構成されるアウタースキンとカーテンウオールで構成されるインナースキンの間に植栽を組み込んだ「グリーンファサード」を実現した。

 建物内の熱効率を向上させ、建物全体でのエネルギー削減効果が期待されており、BCAによる「Green Mark認証」の最高評価であるPlatinumも獲得している。

 シンガポール中心のビジネス地区(Central Business District)に建設された建物で、周辺スペースがほとんどない環境下での工事となったため、工事中のみならず竣工後を含めた安全性確保が大きな課題であった。意匠性と性能を担保するガラスの選定、多数のステンレス部品の選定、デザイン確認や集約化、工法の非溶接化などに取り組んだ。


 □実物件への初めての本格的BIM運用を経て竣工段階での外装BIMモデルを建設会社に納品□


 YKK AP ファサード社にとっても超高層建物のBIMモデル構築をメーンコントラクターと協働で進めるのは初めての経験であった。試行錯誤も経て得た知見として、BIMモデル構築に入る前段階で「何を目標とし、いつ、どこで、誰と、どのデータを交換し、どのように統合するのか」が重要であり、シンガポールでは一般的になっているが、BIMの要求(BIM Specification)と実行計画書(BIM Execution Plan)の内容、それに基づく契約が最重要との結論を得た。

 竣工段階における外装BIMモデル(データ)は、YKK AP ファサード社から竹中工務店に納品されており、竹中工務店は躯体、設備、外装などの各サブコンから提供された最終BIMモデル(データ)を統合し、建築主へ提出している。


 □BCAに報告書「BIM progress report」を提出し企業単独でBIM関連運用の補助金を受ける□


 シンガポールが国家的規模で進めるBIM運用はBCAが中心的な役割を担う。13年にBIMでの電子確認申請を進めると発表、床面積2万平方メートル超の建築物の意匠部分、14年には同規模の建築物の構造・設備部分が義務対象となり、15年からは5000平方メートル超の建築物は意匠・構造・設備の全ての電子申請が義務付けられた。

 BIMによる電子申請を加速化させるためBCAでは実利に即した支援策を推進している。BIMの導入進捗レポートと共に申請、審査が通れば、BIM導入のソフト・ハード購入費、教育費、人件費などの最大半額(上限あり)までを補助。企業単独だけでなく、プロジェクト(プロジェクトコラボレーション方式)単位で複数企業に対しても適用する。

 YKK AP ファサード社は単独(ファームスキーム)で申請し、補助を受けた。報告書「BIM progress report」にはBCAからの要求仕様に則り、BIM導入に関わる項目と進捗+効果などを明記している。

 なお、「CapitaGreen」は、設計(デザイン)・建設・施設管理で最もBIMが寄与したプロジェクト分野(Project Category)においてBCAから「The BCA BIM Award 2015」の最高賞(Platinum)を贈られている。

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)