BIMの課題と可能性・92/樋口一希/安井建築設計事務所のBIM戦略・1

2015年12月3日 トップニュース

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 組織設計事務所としての原点を再定義しつつ、BIMなどのICTを徹底活用することで、技術の射程距離を伸ばし、激変する社会環境下で新規ニーズも開拓、いかに業態のウイングを拡げるのか。安井建築設計事務所の「現在」を報告する。


 □テンプレート外販の底流にある「標準化」「公開性」から安井事務所のBIM運用を俯瞰□


 安井事務所のコンピュータ利用は、70年のコンピュータ室設置に始まり、編集者としての筆者の関わりは80年代初頭の『建築とコンピュータ』誌創刊時に遡る。日影計算プログラム、評定制度以前の構造計算プログラムの自社開発など、先駆性は際立っていた。BIM状況においても果敢に挑戦を続ける安井事務所の現在を俯瞰する。

 11年10月、メディアは「安井建築設計事務所が『意匠設計用BIMテンプレート Revit Architecture版』を外販」と報じた。BIMソフト「Revit」(オートデスク社)のテンプレートは、3次元建物モデルから2次元の設計図書を効率的に自動作成する各種設定(フォーマット)を集約したもので、連動するライブラリ集と共に、BIM運用ノウハウが詰め込まれている。安井事務所は、国交省の庁舎をはじめ、複数の民間建物の設計にフルBIMを適用していく過程で、発注者(国交省など)仕様に合致する設計図書をBIMモデルから作成するノウハウを構築していった。

 キーワードは、標準化と公開性だ。テンプレートでの作図工程の標準化とライブラリによる部材共有ができれば、発注者メリットの提供と組織を超えた効率的な協働が可能だし、そのためには建築の専門内部にもノウハウを開いていく公開性が必須となる。7月には最新の「意匠設計用BIMテンプレート 2015版」を公開している。


 □工期短縮とコスト削減を目的にBIMでの設計システムで大手コンビニの店舗出店を効率化□


建築物は一品生産であり大量生産は困難だが、一方で建築(業)は標準化された部材・部品を組み合わせるアセンブリ産業でもある。この二つのバランスをBIMによって突破し、マス・プロダクション+(受注生産に限りなく近い)マス・カスタマイゼーションを可能にした事例として連載79~81「長谷工コーポの『究極の』BIM」、82~84「積水ハウスの先駆的BIM」を報告した。安井事務所の「究極のBIM」への挑戦をJM(東京都千代田区。前田建設の関連会社で建物の改修・メンテナンスが業務)とのコラボレーションから探る。

 コンビニのビジネスモデルは、あらゆるシーンにおいてスピード最優先だ。出店最適地の決定から土地確保、開業までを短縮し、資材や人件費の経時的な高騰リスクを極力、回避できないか。大手コンビニの要求は、出店費用の見積もりや資材発注業務の内製化などでコストを圧縮し、設計情報の伝達手法を効率化するとの内容だった。


 □BIMによる設計効率化は機動的な改装を可能にすると共にメンテナンスの効率化にも貢献□


 JMは、事業計画段階で、出店候補地と周辺道路や既存建物を合成して3次元モデル化、看板の見え隠れや駐車場の入出庫などの検証を行い、大手コンビニやフランチャイズオーナー、近隣住民、設計者を含む関係者との合意形成に援用していた。安井事務所は、BIMコンサルとして設計から工事に至るプロセスを検証、全店舗パターンの整理分類などを通じてBIMソフトによる設計プロセスの革新を実現した。

 大手コンビニ(実作業はJM)では、従来、16の標準レイアウトを基に個別修正していたが、8パターンのBIMモデルと共通部材に集約、それらを組み替えることで、さまざまな設計条件に対応する数千のバリエーションの3次元モデル+設計図書の作成がオンデマンドで可能となった。

 同時に標準仕様などの改訂の迅速化も実現し、加えて、店舗開設後も冷凍ケースやATMを含む売り場レイアウト変更も容易なため、店舗改装と共にメンテナンスへの機動的な対応が可能となった。

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)