BIMの課題と可能性・93/樋口一希/安井建築設計事務所のBIM戦略・2

2015年12月10日 トップニュース

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 設計から施工に至るまでBIMを連続的に援用し、仮想的な竣工も実現した「加賀電子本社ビル」(東京都千代田区神田松永町)。竣工後のBIM-FM連携に向けて新たな地平を切り開いた安井建築設計事務所の立ち位置を検証する。


 □創る=設計施工段階のBIM運用の高度化で構築した“氏育ちの良い”BIMモデルをFMへ普偏□


 加賀電子本社ビルは、創る=「設計施工・BIM」を、管理する=「FM(ファシリティマネジメント)・BIM」に切れ目なく援用する先駆的な事例だ。BIM-FM連携のベースとなる設計施工段階でのBIM運用の実際から紐解く。

 本案件は、基本設計・監理を安井事務所、実施設計・施工を竹中工務店が担当した。安井事務所では、BIMソフト「Revit」(オートデスク社)の3次元モデルによる建築主との打ち合わせのペーパーレス化から、既存建物の躯体(山留め壁)の再利用提案まで徹底的なBIM運用を図った。施工者のBIM協働も必須条件とし、プロポーザルの結果、竹中工務店を選定した。竹中工務店では、意匠・構造・設備のBIMモデルの統合化=施工へのフロントローディングを行い、3次元モデルを基軸とする施工現場の運営を行った。

 特筆できるのは、鉄骨(躯体)部分に限定されるが、安井事務所による設計監理時の3次元モデル承認を可能にしたことだ。背景には、安井事務所が竹中工務店のサーバーにアクセスし、施工現場での変更状況をリアルタイムで確認できるBIMのネットワーク運用がある。

 安井事務所は、創る=「設計施工・BIM」運用の知見を、『氏育ちの良いBIM(基本設計)モデル』を管理する=「FM・BIM」運用へと普偏していった。


 □QRコードをスマホで撮影する簡易な点検方法を採用した熊本大学開発のシステムを深化□


 BIM-FM連携以前には、竣工後、数カ月を要して施設管理台帳を整備するなど、初動遅れと膨大なコストが生じた。建築主からすると、稼働し始めた建物の管理運用に、創る=「設計施工・BIM」のモデルが再利用できればメリット大だ。今年7月31日、日本建築学会(情報システム技術委員会情報社会デザイン小委員会ファシリティ・デザイン&マネジメントWG)主催のセミナーで加賀電子本社ビルを見学し、安井事務所の主導するBIM-FM連携の実際を繁戸和幸氏(東京事務所・情報・プレゼンテーション部長)のプレゼンに基づき取材する機会を得た。

 BIM-FM連携の中核をなすのは、熊本大学大西研究室が開発した「建築情報マネジメントシステム」だ。維持・管理対象の設備機器などにはQRコードが貼り付けてあり、スマートフォンのカメラで読み取ると、データベース上の当該機器の管理情報と連結し、パソコン画面上に3次元モデルと共に表示される。このようにリアルタイムで行える簡易な点検方法の採用で、最適なタイミングでの保全・修繕、設備の更新作業が可能となった。


 □稼働する建物を動的に捉えて管理するInternet of Buildingsともいえるシステムの先駆性□


 安井事務所では、本案件でのBIM-FM連携のノウハウを活かし、新たなビジネス・モデル構築を加速化している。具体的には、綜合警備保障(ALSOK)がBIM-FM連携システムをサービスに組み込み、安井事務所のグループ会社の安井ファシリティーズがデータ構築やシステムのメンテナンスを担当、ALSOKからシステムの使用料を得るモデルだ。

 安井事務所では、「本システム採用で建物の保全・修繕・更新費用の約10~20%が削減可能」とのALSOKの試算に基づき、数万平方メートルの新築・既存の中小オフィスビルを対象に新規顧客の開拓に着手した。

 安井事務所のビジネス・モデルが先駆的なのは、対象建物を日々、稼働しているものとして捉え、静的でなく、動的に管理するからだ。建物は各種センサーやCPUの集合体となっており、BIMとの親和性は高い。今後は、IoT(Internet of Things)=物のインターネットとともにIoB(Internet of Buildings)=建物のインターネットがBIM-FMのキーワードとなるに違いない。

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)