BIMの課題と可能性・95/樋口一希/安井建築設計事務所のBIM戦略・4

2015年12月24日 トップニュース

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 安井建築設計事務所と賃貸用物流不動産分野のリーディングカンパニーであるプロロジスとのBIM協働を通して、組織事務所の職能と「建築∩(カップ)コンピュータ」の今後を展望する。


 □ネット通販の急速な興隆で物流は激変するとともに影響は広く建築(業)全般にも及ぶ□


 我が国のEC(電子商取引)市場規模は、B2Cで2・8兆円(前年比14・6%増)となった※。アマゾンジャパンは「当日お急ぎ便」を展開し、ファーストリテイリングは10月8日、5%程度のネット通販比率を短期間で30%から50%まで引き上げると公表した。ネット通販の急速な興隆によって物流は激変し、広く影響は建築(業)全般にも及ぶ。

 家電量販店が郊外型から都市型へと逆移行したように、アウトレットモールや商業施設の改編も生じるかもしれない。安井事務所とプロロジスとのBIMによる協働は、建築(業)への市場ニーズの変容の中での必然としても捉えられる。

 プロロジスの物流施設の開発は、自社で基本計画まで、設計・施工はゼネコンに発注するスタイルをとる。監理監修業務で受託実績のある安井事務所はBIMの有用性・導入について提案の機会を得た。


 □アトム(建築物)の設計の原初にある「情報を設計する」へと業態のウイングを拡げる□


 プロロジスでは、2次元CAD運用期からランプ形状、スパン、階高、床荷重などの標準化を行い、BIM化の下地は整備されていたが、いざ導入となると、さらなる後押し要因が必要だった。

 設計と共に、物流施設の維持管理にBIMが有効との認識のもと、BIM導入を進めたのがプロロジスの荻原康利氏(バイスプレジデント・設計部長)だ。

 「BIMソフト『Revit』(オートデスク社)に慣れると、3次元で建物をイメージし、結果としての図面が想定できる。標準化効果も明らかで、設計手順の改善で業務速度も上がる。現在は概算システムとの連携を進めている」(荻原氏)

 安井事務所は、プロロジスとBIM化状況への認識を共有し、事業計画のための基本計画など、プロセスのヒアリングやアウトプットの分析を行い、BIMワークフローへの置き換え、運用マニュアルの作成などを行っている。

 両社の関係は、バタフライ・エフェクト現象ともいえる。ビット(ネット)の急激な展開でアトム(物流)が激変し、建築へのニーズにも影響する。安井事務所は、「建築∩コンピュータ」の集合知を集約し、アトム(建築物)の設計の原初にある「情報+プロセスを設計する」へと向かって業態のウイングを拡げた。


 □設計(者)に求められるマネジメント力とデジタル化した建築情報を活用する技術力□


 代表取締役社長、佐野吉彦氏を大阪本社に訪ね、BIMを取り巻く安井事務所の挑戦の背景を聞いた。

 トップダウンでBIM導入を進めたのは、06年に米国でBIMソフトを直接操作する機会があり、BIMが建築生産のプロセスを変革するとの直感を得たからだ。市場変化に対応し、クライアントの要請に応えるためには、設計(者)のマネジメント力とデシタル化した建築情報の徹底活用が必須となる。その思いは年々、確信へと変わっている

 「昨年11月、西宮市仁川学院小学校で5年生対象にBIM教室を開いた。30分の『教室大改造』という課題に、ゲームで3次元空間に慣れた子供たちは椅子、テーブルなどを配置し、好みの大改造を体感していた。嬉しかったのは当初は1人もいなかった建築家になりたいとの挙手が半数以上となったことだった」(佐野氏)

 今年は建築が深く傷ついた。16年は「BIMによる建築の可視化」を通して、建築の非専門家=市場に対して、いかに建築を開いていくのかが問われている。設計事務所としての技術の射程距離を伸ばし、業態のウイングを拡げるべく挑戦を続ける安井事務所の今後の活動に注目していきたい。

 ※出典=経済産業省「平成26年度我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)