BIMの課題と可能性・96/樋口一希/2016年の「業としての建築」を展望

2016年1月7日 トップニュース

文字サイズ

 厳しい現実と最もよく闘えるものが深く遠くまで夢を見られる。16年、建築は傷を癒やし、「デジタルの夢(展望)」を見られるのか。

 「BIMの課題と可能性」を深掘りし、「業としての建築」の展望を探る。


 □市場の厳しい視線とともに建築離れが進む中でBIM+ICT活用を通して次なる展望を拓けるか□


 国土交通省は15年12月17日、1級建築士の合格者を公表。受験者数2万5804人、1次試験(学科試験)・2次試験(設計製図試験)ともに通過したのは3774人、合格率は12・4%。

 2000年代初頭まで約5万人あった受験者数は09年以降、激減した。技術者不足が進むと、建物の品質・安全確保も覚束なくなる。スタートラインに立った平均年齢32・5歳(建築技術教育普及センターの「一級建築士試験データ」より)の合格者たちに、「業としての建築」は、BIM+ICTの活用で次なる展望を示さなければならない。


 □「業としての建築」とBIM+ICTを統合することで新たな市場を創出し激変する状況に対応□


 15年10月14日、六本木ヒルズ(東京都港区)で開催の「Innovative City Forum」。MIT(米国マサチューセッツ工科大学)メディアラボの創設者、ニコラス・ネグロポンテ氏は講演「Differences」で「2020年、東京を走る乗用車を全て全自動運転車にすると宣言してはどうか。既存の駐車場は激減する」と語った。

 乗用車は位置情報を相互交換、創る=設計・施工のBIMデータは建物に援用され、IoT(Internet of Things)で乗用車と通信し最適な駐車場を探す。駐車場が激減できれば、都市計画の劇的な革新もできる。

 既存の産業構造の中にICTを入れて撹拌(かくはん)する。レスポンシヴ・ビジネスと呼ばれるUberやAirbnbなど新業態によって、不動産業、タクシー業などの境界は溶解しつつある。既存業種が前提のハードウエア(インフラ)に規定されている都市の有り様を変え、より多様化、多層化した市場が出現するに違いない。「業としての建築」においてもBIM+ICTを統合、撹拌し、状況に臨機応変に対応すべきだ。


 □建築の自己革新が遅れる中でBIMの優位性に気付いた建築主が主導権を握るかもしれない□


 連載88「海外のBIM事情」=米国事例。建築主(オーナー)は、建設に際して設計事務所、ゼネコン、サブコンを糾合、BIMによるIFoA(Integrated Form of Agreement)=4者間契約を結ぶ。4者は建築主提示のターゲットコストに対して、プロジェクトの予算配分を協働で策定、BIM・設計・工事の各コストも算定し、フィー(実費)ベースで契約する。

 IFoAには巧妙に 〔3~5%のコンティンジェンシー・フィー(contingency Fee)〕=図参照=が仕組まれている。まさか(contingency)のコスト超過時には3~5%を切り崩し、収まった場合には分配する。これらは『オープンブック=完全な公開性』で実施されるので疑心暗鬼もなく、相互監視機能も果たす。

 BIM+ICTのデジタルデータは、20年の祝祭のメーン会場で喧しいデザインビルド議論や実施設計を巡る陣取り合戦も、組織の壁も国境さえも軽々と超えていく。

 16年は「業としての建築」内部からだけでなく、建築主にとってのBIM運用も視野に入れ取材を進めていく。

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)