BIMの課題と可能性・99/樋口一希/前田建設の最新BIM・3

2016年1月28日 トップニュース

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 設計施工+BIMによるフロントローディングの優位性を最大限に発揮した東京電力「福島給食センター」プロジェクトついて報告する。


 □短工期が求められた復興のために働く現場作業員に温かい食事を供する給食センター建設□


 東京電力が福島第1原発の給食センター建設地を福島県大熊町大川原地区に決定したのは13年11月。大型休憩所竣工との関係で15年3月末完成が条件となった。前田建設が意匠・構造・設備の設計者30人のチームで設計を開始したのは14年1月初旬であった。

 一日約3000食の温かい食事を現場作業員に提供する機能仕様と超短工期の実現。プロジェクトは関係者にとって、建築主と設計者・施工者がBIMを用いて初期段階から行う協業形態:IPD(Integrated Project Delivery)への試金石となった。

 「建築主側のPMr(Project Manager)と設計・施工を担う前田建設がBIM協働を決断した瞬間から、BIMによるフロントローディングの優位性の証明を運命づけられていた」(前田建設建築事業本部企画・開発設計部BIM設計グループ長・綱川隆司氏)。


 □BIMで実現した衛生管理規制のクリアと輻輳する各種関連設備と躯体との干渉チェック□


 給食センターは、食材と調理機器を別途スペースで洗浄しなければならないなど衛生管理が厳しく、建築確認申請前に保健所から承認を受ける必要がある。前田建設では、3次元モデルをベースに食材と調理の流れの最適化シミュレーションを行った。輻輳する要求仕様への適格性を判断しつつ、設計案は保健所との折衝とともに借地範囲の決定にも援用された。

 究極のフロントローディングは、行政や地権者との交渉への援用とともに、施工BIMモデルへと普遍していく。大量に水を使用する給食センターでは給排水配管への設計・施工上の配慮が必須だ。地下ピット内には排水勾配を設け、床スラブでは配管が貫通する箇所の配筋部を避けてスリーブを開ける。給排水設備と躯体の干渉チェックは2次元図面では実質的に不可能でBIMだから実現した。3次元モデルは空調・電気設備と躯体との干渉チェックへと連続的に援用されていった。

 デジタル空間上に対象建物を3次元モデルで施工することでデジタル(ビット)は鉄骨(アトム)の前倒し確保に大きく貢献した。バーチャル施工ができても、リアルな鉄骨がなければ建てられない。もうひとつの究極のフロントローディングだ。


 □3次元モデルと2次元図面の相関性に内在する課題を解決して確認申請などへも現実対応□


 3次元モデルの「見える化」が合意形成の精度向上と時間短縮にメリット大なのは理解され始めている。3次元モデルから2次元図面を生成する主目的は工程間承認(捺印)や行政対応のためだ。前田建設はプロジェクトでの課題解決の成果を公表した。

 保健所との折衝初日の14年1月22日から効果は絶大だった。レイアウト修正と関連設備の配置変更を、図面間の不整合を気にせずに短時間で、3次元モデル上で統合的に行い、2日後には修正図面が完成した。

 このようにBIMモデル変更+図面出力を繰り返し、保健所からは2月26日に最終的な変更指示を受け、3月14日に確定図面を出力、建築確認申請は3月19日に行った。地上2階、鉄骨造、建築面積3256・75平方メートル、延べ床面積4052・64平方メートル(付属棟含む)の福島給食センターの設計期間は約3・5カ月であった。

 行政、建築主、前田建設ともに、プロジェクト参加者は、従来の2次元CADによる設計施工プロセスでは完成は不可能だったとBIMの威力を実感した。厳しい環境下で作業している現場作業員に、出来たての温かな食事を届けられる。不可能だといわれたミッションはBIMによって完結した。

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)