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大震災5年-これまでとこれから・8/土木学会会長・廣瀬典昭氏  [2016年3月2日1面]

廣瀬氏

 ◇産官学の調整が技術者の役割/インフラの多面的利用重要に
 震災直後に「東日本特別委員会」を発足させ、その下に各領域・分野に関する29の研究委員会を置いて地域の復興と津波対策をどうすべきかを研究してきた。各委員会だけで対処できない課題は、地域防災計画、津波、液状化、原子力安全土木技術、復興施工技術、復興総意形成、災害対応マネジメント、情報通信技術を活用した防災施策、放射性汚染廃棄物対策土木技術の計9特定テーマ委員会を設け、社会へのメッセージを短期間に公表した。
 昨年6月には「自然災害に強いしなやかな国土の創出のために」と題した行動宣言と行動計画を策定し、地区防災計画を地域の人が作れるよう、土木技術者がその活動を支援することを決めた。各地の大学が中心となり、建設コンサルタントやゼネコンなどの地元企業と自治体も参加して計画に実効性を持たせ、日常的に防災教育や訓練を行う仕組みを作って活動を継続させる。
 岩手県宮古市田老町の防潮堤は、津波レベルが1であれば本来の役割を果たした可能性がある。ただ、構造物に頼るだけでなく、住民が逃げる仕組みも作っておかなければいけなかった。技術の進歩が人々の生活を守ることに役立っていることは間違いないが、あの巨大津波は防げなかった。逃げることとインフラ整備がセットでなくてはいけない。逃げる範囲や人の行動を考えるのは土木だけでは限界がある。東北では他の学協会、地域の人々、地元企業と対話しながら、専門家の知見を生かして地域防災計画の策定を支援してきた。こうした調整が土木技術者の役割だ。
 災害の被災規模を伝える表現にも工夫が要る。100年に1度起こるという表現だけでは分かりにくい。防災分野で土木技術者は、常にどのような事象が起こり、起こるとどうなり、避けるためにどうするかを住民と話していかなければならない。構造物の設計、現象を理解するだけでは土木技術者としては不十分だ。生活する人の身を守ることを考え、対策をどう選択するかが重要であり、土木技術者の役割が問われる。
 昨年9月の関東・東北豪雨では茨城県常総市で鬼怒川の堤防が決壊した。破堤すればすべての機能がゼロになる。鬼怒川の災害を教訓に、堤防が決壊したらどうなるのかを理解してもらうことも地域の防災レベルを高めるためには有効だ。スーパー堤防の整備に批判が集まった時期もあるが、スーパー堤防は越水しても破堤することがない堤防であり、上部利用も可能だ。インフラは一つの機能にとどまらず、多面的に使われることが重要になる。
 例えば、仙台市などでは震災で津波が来た時に、道路の盛り土部が二線堤の機能を果たした。鉄道や道路などのルートを決める時に平常時だけでなく非常時の使われ方を考えたり、二重三重の防御に日常的に使う施設を活用したりする発想が大事だ。
 災害の情報を共有し、記録を残すことも大切だ。その時の対応を振り返れば次に活用できる。発生した事象から対策を考える。災害発生直後のデータは特に重要になる。被災から時を経て、別の観点でものを見ると新たな価値が現れる。情報を残す土木図書館のデジタルアーカイブを充実させる必要がある。(随時掲載します)

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