BIMの課題と可能性・106/樋口一希/鹿島のGlobal BIMの深化形・1

2016年3月24日 トップニュース

文字サイズ

 新年度を迎えるに際して、BIM推進への応援を込めて、以前から動向を追跡している鹿島の「Global BIMの深化形」を3回に分けて報告する。初回は「BIMママ」だ。


 □一時の「リケジョ」ブームを越えて女性の新たな働き方を提案し実現する「BIMママ」□


 3月10日、本紙3面掲載の日刊建設工業新聞社調査記事「ゼネコン各社、女性の新卒採用拡大 16年春入社は140人増、17%に」。鹿島については「2・3倍の41人と大幅に増やし」「14年に女性技術者・管理職を5年で倍増、10年で3倍にすることを目指すとの自主行動計画を策定し、積極的に女性の採用を進めている」とあった。

 4月1日からは「労働者301人以上の大企業は、女性の活躍推進に向けた行動計画の策定などが新たに義務付けられる」女性活躍推進法が施行される。

 企業では人手不足解消が喫緊かつ継続的な課題で、建設業も同様だ。一方で、建物のユーザーの半数は女性であり、「業としての建築」という専門性においては、本来、男女の区別はないはずだから、あえて女性の採用を話題にするのは、女性の側からすると、おかしいに違いない。建築という専門性をデジタル化によって多様に開いていく「Global BIMの深化形」だからこそ実現した新しい職能「BIMママ」の実際を概観する。


 □デジタル空間上に建物をモデリングしていく高度な能力をもつBIMママという新しい職能□


 現在、BIMママとして活躍しているのは7名で、13年に元鹿島社員の城所秀樹氏が設立し、代表を務めるモデリング専門会社BIM systems(横浜市鶴見区)と業務委託契約を締結し、BIMモデルの構築・編集作業を行っている。

 2次元CADでの製図(清書)オペレーションでは、2次元図面そのものの品質が求められたが、BIMでは、前稿のシンガポールのBIM Studioの「Build Twice, First Virtual then Real」にあるように、デジタル空間上に、バーチャルで3次元的に、実際に建物を建てるのに匹敵する高度な建築知識とモデル作成能力が求められる。共通認識となりつつある「BIMでは清書作業専任のオペレータは存在し(にくい)得ない」。どのようにして「Global BIMの深化形」は新しい職能「BIMママ」を可能にしているのだろうか。


 □安全なネット環境+実施設計図などから初期の基本(BIM)モデルを構築するノウハウ提供□


 鹿島では、BIMソフト「ArchiCAD」(グラフィソフト製)を用いて社内外の関係者と協働するため高度なセキュリティーを備えたクラウドサーバーを基盤としたプラットフォーム「Global BIM 2.0」を運用している。

 「BIMママ」も、このシステムを利用しており、関係者間でプロジェクト領域を共有、複数人が並行して、在宅で施工BIMモデル(図)の構築・編集作業を行っている。

 BIMのワークフローで最初に構築するのが『基本モデル』。実施設計図などを基に構築されるBIMモデルの「根幹(種)」で、工程の進捗(しんちょく)に合わせてフレキシブルに情報を追加できるよう、入力要素は必要最小限に抑えられている。

 この基本モデルこそが、「Global BIMの深化形」を支える要諦だ。鹿島のBIM運用の知見が集大成された、基本モデル構築の要求書に基づきBIMソフトを操作することで、バーチャルで3次元的に、「BIMママ」は、まさに「Build Twice, First Virtual then Real」で建物を建てることが可能となる。

 「仕事と育児を両立できる、女性にとって働きやすい職場創りは、残業や休日出勤が慢性化しやすい建設業の環境改善に寄与する。豊かな経験をもつ定年退職者も得難い戦力だし、ハンディキャッパーの参加も促進できる。働き方の自由度を増すことで、組織と個人のワーク・ライフ・バランス向上に貢献していく。折しも3月7日に開催された『輝く女性の活躍を加速する男性リーダーの会』行動宣言賛同者拡大ミーティングに、弊社の押味社長は建設業界のトップバッターとして参加するなどBIMママ推進を強力に支援している」(鹿島建築管理本部建築技術部担当部長・BIM責任者・生産性向上・矢島和美氏)。

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)