BIMの課題と可能性・4/樋口一希/コスト削減効果定量化の試み・3

2014年2月13日 トップニュース

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 既存建物をコンピュータのデジタル空間上に再度、「新築」し、65年間、BIM・FM連携で運用したと仮定すると、ライフサイクル・コスト全体の約13%が削減可能との検証結果を得た。明らかとなった課題とBIM・FM連携を推進するべく事由について概観する。


 □求められる「建築とコンピュータ」双方にまたがる情報技術の確立□

 最初に顕在化したのは情報技術面での課題だ。オートデスクのBIMソフト「Revit」と日本IBMの資産管理ソリューション「Maximo」の間を橋渡しする中間ファイル(形式)「COBie」運用に即して課題をみてみる。

 COBieは、設計分類のシート「Space」を各部屋の情報(室名、面積、IDなど)と定義しているように、全13のシートで建物の属性データを区分けしている。大成建設側ではCOBieでのデータ転送を考慮してRevitで3次元データ(属性データ)を構築する必要があるし、日本IBM側には、RevitのデータがCOBieを介してMaximoに正確に受け渡され、稼働するようサポートする役割がある。まさに「建築とコンピュータ」双方の領域にまたがった情報技術のノウハウ公開と共有が必要となる。

 両社は、コラボレーションを続ける中で、「建築とコンピュータ」の中間に位置し、マネージメントする「新しい職能」が必要だと確信した。業態をまたいで、新しい職能=人材をいかに育てるかという教育面での課題が浮き彫りとなった。


 □数十年に及ぶ建物の管理運用には新たな社会的合意形成が必須□

 プロジェクトに要したのは約3カ月。実際には数十年に渡り、システム運用を続ける。その間、建物の発注者(オーナー)、設計者、施工者、FM事業者など、さまざまな関係者は、役割に準じて、建物の運用データを共有、管理し、スタッフやシステムの代替わりにも対応しなければならない。

 現況は、大手組織でも専任のファシリティマネジャーをおいているところは少ない。

 今後は、BIM・FM連携時の管理運用コストを拠出する発注者(オーナー)にメリットを定量的に明示し、FM事業者など、さまざまな関係者間で、ビジネス(コスト負担・メリット享受/分配)を前提とした合意形成が求められる。


 □オーナー側のメリットはコスト負担の低減+不動産(資産)価値の向上□

 老朽化が進む首都圏のインフラが問題となっている。建物の耐震化も急務だ。今後、建設される建物では、オーナーが追うべき責任の一端としてBIM・FM連携による徹底した管理運用が求められるかもしれない。

 発想の転換も必要だ。BIM・FM連携による管理運用で建物を常に最善の状態に保つことで不動産価値を最大化できる。BIM・FM連携はプロパティマネジメント、アセットマネジメントの分野からも注目を集め始めている。それらの側面からも、大成建設と日本IBMが行った検証実験は意味あるものとなった。


 □デジタルデータの応用範囲を大きく広げるBIM・FM連携□

 建築が他の製造業と決定的に異なるのは、一品生産ということだ。そこが建築のユニークさなのだが、そのため設計・施工段階においてBIMソフトで3次元データを構築しても、他の建物にそのまま援用できない。

 BIM・FM連携は、それらの課題を払拭するかもしれない。長期に渡る建物の管理運用にデジタルデータを援用することで、その応用範囲を広げられるし、一品生産という建築の不利な側面を軽減できる。

 次回からは清水建設の施工図部門がBIMソフトを躯体BIM=施工図作成の領域に活用したケースを報告する。

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)