BIMの課題と可能性・130/樋口一希/BIMデータを使用した建築確認申請・1

2016年10月13日 トップニュース

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 オートデスク9月1日発のニュース「BIMデータを使用した建築確認申請手続きによる国内初の確認済証を交付」が波紋を広げている。シンガポールなどでは建築確認申請時にBIMモデル提出が義務付けられているが、我が国では未着手だ。申請主体のフリーダムアーキテクツデザインを緊急取材した。


 □4号建築物に限定し現状の確認申請の仕組みにBIMモデルを持ち込み確認済証受領を実現□


 訪問時、9月20日には、フリーダムアーキテクツから確認申請機関の住宅性能評価センターへ申請用BIMモデルを提出し審査の結果、確認済証の発行は2件であった。

 対象を4号建築物に絞り込み、現状の建築確認申請の仕組みの中にBIMモデルを持ち込むなど限定的な試みでもあるが、BIMを取り巻く停滞状況に風穴を開けたのは確かだ。フリーダムアーキテクツと協働したのは、住宅性能評価センターと共に、大塚商会、オートデスクである。


 □当初は独立系の建築設計事務所の実利追求と生き残り戦略の一環でBIMの導入に踏み切る□


 フリーダムアーキテクツは、95年4月設立の個人建築事務所を出自とし、14年4月に社名変更、本格的な事業展開に入った。社名に明示されているように、独立系の建築設計事務所として、キーコンセプト「注文住宅なら建築設計事務所」を掲げ、本社、日本橋、新宿、渋谷、自由が丘、池袋、横浜、千葉、梅田、難波、神戸、京都、名古屋、岡崎、福岡、関東設計Labの16拠点において、自ら市場=建築主を開拓し、ユーザー・オリエンテッドな住宅供給を使命として活動している。

 設計者総数の約30%に相当するBIMソフト「Revit」を導入したのは14年秋のことだ。導入当初、BIMモデルでの確認申請は想定外であったにも関わらず、相当額を投資し、BIMソフト導入に踏み切った背景には、独立系の建築設計事務所としての実利追求と生き残り戦略があった。


 □戸建て住宅建設時に依頼先の選択肢が限られる旧態依然たる課題をいかに解決するか挑戦□


 戸建て注文住宅を建てようとすると、選択肢は限られる。建築家は縁遠く、設計事務所も身近にないし、テレビCM頼りに住宅メーカーに接触するか、展示場を訪問するかだ。設計事務所の側が市場=建築主に顔を見せないのも問題だが、建築主にアプローチする方法も限られていた。フリーダムアーキテクツでは、バーチャル(自社サイトのメディア化)+リアル(16拠点)を複合的に組み合わせ、自ら市場=建築主を開拓し、事業展開している。

 市場=建築主に対する情報の「開き方」も特筆できる。「家づくりの営業マンが一人もいません。すべて設計者(建築家)、土地探しのプロが対応させていただいています」「設計監理費用は工事請負金額の13%になります」と透明かつ明快だ。


 □BIMの「見える化」効果の徹底活用が建築主との合意形成の質的向上と信頼感醸成に結実□


 BIMによる「見える化」が建築主への提案力強化に効果大なのはすでに自明となった。フリーダムアーキテクツでは、建築主との合意形成の質を高め、営業機会拡大のために業務フローを質・量ともに革新する明確な戦略に基づきBIM導入に踏み切った。

 設計者がBIMに習熟するに従い、図のように、量=打ち合わせの時間はほぼ半減し、質=建築主からの信頼感の高まりを設計者が感得できるという成果が顕在化した。

 20歳、30歳代の設計者は、首都圏、関西圏で戸建て住宅を建てられる経済的にも豊かな顧客層に対して設計の根拠を明確に示し、対等に渡り合える強力なツールとしてBIMを手に入れた。

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)