BIMの課題と可能性・143/樋口一希/進化を続ける鹿島のBIM・3

2017年1月24日 トップニュース

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 施工現場でのBIM運用を充足しつつある鹿島の現況を踏まえ、「業としての建設」全体の生産性向上をいかに実現するかの見地から、その動向を再考する。


 □「市場縮小+人手不足の二重苦」の中でデジタルの優位性を活かして生産性の向上に寄与□


 本紙16年11月14日付1面に掲載された「ゼネコン上場大手4社16年4~9月期決算粗利益率、全社が2桁乗せ」。一般紙や経済誌も「バブル期を上回る活況」と強い関心を示す一方で、「需要ピークは五輪直前まで」「その後は人手不足」と不透明感も露わにした。「市場縮小+人手不足の二重苦」の中で、いかにして生産性向上を実現するかが問われている。

 15年3月に日本建設業連合会が公表した「建設業長期ビジョン」では、25年に必要な技能労働者を328万~350万人と推計し、その間で高齢者を中心に128万人が離職する見通しの中、新たな技能労働者の90万人確保とともに、不足分35万人の手当てが必要だとした。

 デジタル世代の若者の建設業への参加を促し、女性が働きやすい環境作りのためにインフラを整備する。不足分の労働力を補う生産性向上とともに、デジタルによる新たな価値創造との関わりの中でBIM運用を明確に捉え直すべきだ。


 □パブリック・ドメインとして壁は作らず広く「開いていく」ことでの生産性向上への貢献□


 デジタル情報を運用するに際して、関係者間の利害を調整し、BIMモデルなどデータ連携の無駄を省くことは直接的に生産性向上に結びつく。鹿島は、データ連携での標準化と課題解決に貢献するべく、パブリック・ドメインとしてbuildingSMART Japan(bSJ)における施工小委員会の活動を積極的に推進している。

 クラウドを用いて外部組織と協働するために、BIMソフト「ARCHICAD」の使用権を一時的に貸与する仕組みも構築した。コスト負担を極小化しつつ、環境を「開いていく」ことで生産性の向上を具現化した。

 退職後あるいは子育て世代に向けて、キャリアを活かすべく「BIMママ」という職能を設けた。モデリング専門会社と業務委託契約を結び、BIMモデルの作成・編集作業を行っている。ここでもBIMの運用環境を「開いていく」ことで人手不足解消と生産性向上に挑戦している。


 □「IoT」との関わりで視野に入る「Connected Building」+追跡取材したい建設業での「AI」□


 鹿島の施工BIM運用の現在と建設システム全体との距離感を測定することで「建築とコンピュータの近未来」を俯瞰できる。

 次世代BIM/CIMとICT実装の組み合わせで実現を図る「スマート建設生産システム」=図(出典:COCN〈産業競争力懇談会〉)=にあるように、社会全般のデジタル化の急速な進展と「業としての建設」は密接に関わっている。自動車の全自動運転と「IoT」との関わりを示す概念「Connected Car」に仮託すれば、「Connected Building」も視野に入るだろう。シンガポールでは国土の3次元データベース化に着手し、その際に、IoTとの接続・連携のインフラとなるのはBIMモデルだ。

 『鉄鋼技術』(鋼構造出版)1月号の鹿島の紹介記事「コンピュータを使用した建築の現状」では、「AI」とBIMとの連携について触れていた。施工現場でのBIM運用という実利追求を第一義として、生産性向上を実現した鹿島が研究を進める「IoTとAI」だから、現況との距離感を見事に詰めているはずだ。再度、取材の機会を得るべく、情報収集に努め、追跡を続ける。

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週火・木曜日掲載)