BIMの課題と可能性・144/樋口一希/小規模組織のBIM運用・1

2017年1月26日 トップニュース

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 竹中工務店、奥村組、鹿島と大手ゼネコンへの取材が続いたが、その間も探索していた小規模組織のBIM運用の「今」について報告する。


 □「確認申請まで図面出力しない」状況下で製図システムとしての役割を終えた2次元CAD□


 連載開始時にBIM(Building Information Modeling)は、「広義にはコンピュータ上に構築した3次元の建物モデルに、さまざまな属性データを付加し、設計・施工から竣工後の施設管理までを行うためのソリューション」だが「狭義には3次元の設計・モデリングツール」との定義も加えた。小規模組織での主たるツールとなる狭義のBIMを俎上に上げないと現況を網羅できないからだ。

 新規事例報告の前に、15年4月から5月にかけて掲載した本稿62~64回「藤岡郁建築設計事務所」と65~67回「空創房、一級建築士事務所」の「その後のBIMの進化」を押さえておく。

 両組織は、意匠系の個人事務所で、所長自らが設計者として、それぞれBIMソフト「Vectorworks」(エーアンドエー)、「GLOOBE」(福井コンピュータアーキテクト)を使用している。追跡取材の中で驚かされたのは、ともに「建築主や施工会社との合意形成は3次元モデルが主体」「確認申請までは(ほぼ)図面出力はしない」という、その後のBIMの進化だ。すでに製図システムとしての2次元CADは、その役割を終えたのかもしれない。


 □確認件数の約7割を超える「木造建築」を主に扱う小規模組織の木造BIM導入を支援する□


 国土交通省のホームページ「最近の建築確認件数等の状況について」(16年7~9月)によると、木造在来工法(主に4号建築物)の確認申請件数は11万1751件で、全体(15万1418件)の73・8%である。それら確認申請件数の過半を大きく超える「木造建築」を扱う小規模組織でも、BIM導入をいかに進めるのかの段階を迎えている。

 そのような状況を受けて、小規模な建築設計事務所や工務店でのBIM導入を積極的に支援しているのがBIMソフト「Vectorworks」ベンダーのエーアンドエーだ。16年には、木造建築での実践的なBIM運用を学べる「Vectorworks BIM CAMP 2016(木造編)」を通年にわたり各地で開催した。

 新「Vectorworks 2017」向けに提供を開始したのが「A&A 木造詳細建具ツール」のパイロット版だ。

 本ツールは、Vectorworksにインストールすることで、木造BIM=木造建築の設計時に、国内仕様の建具を配置し、図面化できるプラグインで、使用頻度の高い12種類のツール(ドア、窓、シャッター、フォールディングなど)を提供している。ツールが扱うオブジェクトは、2次元・3次元対応のハイブリッド型のパラメトリック・オブジェクトになっている。


 □小規模組織でのBIM運用のポテンシャルを飛躍的に高めると期待大のクラウド連携機能□


 ユーザーが特に注目している「Vectorworks 2017」の改善点が、図にあるBIMモデルを関係者間でシェアし、同時に協働できる「プロジェクト共有」機能だ。特別のサーバー不要で、広く普及しているDropbox、OneDrive、Google Driveなどが使える。現実となりつつある建設会社などとの協働にメリット大だ。

 VR(Virtual Reality)対応のプレゼンテーションツール「Webビュー」、大量のオブジェクトなどの管理効率を上げる「リソースマネージャ」、新規の編集ツールを追加した「サブディビジョンモデリング機能」への関心も高い。

 次回からは、コミュニティー・ハウジング建築設計事務所(世田谷区)と原忠(福岡県田川市)におけるBIM運用を報告する。

 ※使用できる機能範囲はソフトの契約形態で異なる。本年のセミナー開催予定については、エーアンドエーのホームページから確認のこと。

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週火・木曜日掲載)