BIMの課題と可能性・8/樋口一希/組織設計事務所のBIM運用・1

2014年3月13日 トップニュース

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 大成建設と日本IBMのBIM・FM連携、清水建設と福井コンピュータアーキテクトのJ-BIM施工図CADについて紹介したが、今回は建設業の川上に位置する組織設計事務所として日建設計がBIMソフトをどのように運用しているのか現況を報告する。


 □日建設計におけるコンピュータ利用の原点□

 現エクスナレッジの「建築とコンピュータ(A∩C)」誌の取材で最初に訪問したのは三十数年前だ。設計者1人に1台のPCはなく、大型のXYプロッタをディスプレイ代わりにして出力結果に加筆、修正、成果物は出力図面だった。

 新宿NSビルの基準階データの繰り返し利用、神戸ポートピアホテルからの高架鉄道越しの海の見え方など、コンピュータ利用のメリット=「情報のデジタル化」「見える化」に設計者は気付き始めていた。そこに組織設計事務所としてのコンピュータ利用の原点があった。


 □開発者も巻き込みソフトを日建「仕様」に育て上げる段階に入ったBIM運用□

 2013年11月21日、日建設計と「ArchiCAD」のベンダーGraphisoftは戦略的パートナーシップ契約を締結し、日建設計社内に専任チーム「BIM Competence & Research Center」を立ち上げると発表した。

 それを受けて2014年初頭に組織改編し、二つの組織がBIM化を担っている。日常の設計実務でBIMソフトを徹底的に使い込み「一般的なBIM化」を担う3Dセンター。コンピュテーショナル・デザインなど「先進的なデジタル技術+BIM化」を研究し、可能性を探るDDL(デジタル・デザイン・センター)。  日建設計とGraphisoftは更なるBIM化推進のためにBIMソフトを日建「仕様」に合わせる必要があった。GraphisoftからはBIMソフトの開発者も参加し、日建設計の設計プロセスを読み解き、日建「仕様」へ育てる優先順位を決定し、製品開発に着手した。

 「日建設計の設計ノウハウを『ArchiCAD』に組み込むために、一部の機密事項も抱え込まずに開いている。この試みが現実に即したBIM化に結びつき、建設業全体の底上げに役立てばと考えたからだ」(日建設計執行役員設計部門代表・デジタルデザイン室長・山梨知彦氏)


 □建設業の川上の設計事務所に求められるフロントローディングへの対応□

 設計者がBIMソフトを3次元の設計・モデリングツールとして使用する際に課題となるのが入力量=作業量の増加への対応策だ。

 BIMソフト運用のメリットとして「フロントローディング」が喧伝されている。設計の初期段階で、BIMソフトで対象建物の3次元モデルと属性情報を作り込み、事前に設計検討や問題点の改善を図ること(フロントローディング)で設計品質を高めること。

 取材過程でヒアリングしたある建設会社の設計部長は「BIMによるフロントローディングは理屈ではわかるが、設計者は3次元データの入力量が極端に増えると懸念をもっている」と語った。

 BIMソフトでフロントローディングに取り組む際の対応策として注目を集めているのが山梨氏もインタビューで語ったLOD(Level Of Development)だ。

 例えばLOD200(基本設計モデル)、LOD300(実施設計モデル)、LOD400(施工モデル)と入力レベルを設定する。これによって、どこまで入力すればビジネス的に妥当なのかも把握でき、無駄な入力をなくせる。

 次回は、実際の設計事例なども含めて、組織設計事務所としてのBIM運用について報告する。

 〈アーキネット・ジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)