BIMの課題と可能性・173/樋口一希/ダッソー・システムズと建築・2

2017年5月18日 トップニュース

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 ダッソー・システムズ(Dassault Systemes)では、「3DEXPERIENCEプラットフォーム」をベースに、「3DEXPERIENCityプロジェクト」の一環としてシンガポール国立研究財団(National Research Foundation:NRF)と共同で18年完成を目処に「バーチャル・シンガポール(Virtual Singapore)」の開発を進めている。


 □箱庭的な都市国家だから国土丸ごと3次元化「バーチャル・シンガポール」の挑戦が可能□


 米国ベンチャーのヌートノミー(NuTonomy)がシンガポール政府の許可を得て、新興ビジネス街ワンノース地区で自動タクシー運転の試験サービスを開始したのは16年8月だった。18年の本格運用を視野に入れ、世界初の公道試験が実現した背景には陸上交通局(Land Transport Division:LTD)など政府を挙げての支援がある。

 本稿第89~91回「YKKAPファサードの先進事例」で報告したように、シンガポール政府では建築建設局(Building & Construction Authority:BCA)を中心に、一定条件下の建築物ではBIMでの電子確認申請を受け付けるなど、国家的な規模でBIM運用を進めている。

 自動運転車は、GPS(衛星利用測位システム)に加え、レーザー光線によるセンサー式測定装置を搭載、周囲の建物街区の状況や障害物を把握しながら安全走行する。その際に、設計施工段階で作成された3次元建物モデルをデジタル援用し、IoT技術などを駆使して自動運転車と相互通信すれば、Connected CarからConnected Building+Internet of ThingsからInternet of Buildingsへと都市環境を革新できる。

 シンガポールは、東京都23区ほどの箱庭のようなスケールメリットを逆手に取り、国土を丸ごと3次元データベース化する「バーチャル・シンガポール」に挑戦している。


 □「バーチャル・シンガポール」の上位レイヤーとしての「スマート・ネーション構想」□


 都市に住む一般的な住民視点から「バーチャル・シンガポール」とは何かを俯瞰できるのが、文末URLから参照できる「スマート・ネーション構想(Singapore’s ‘Smart Nation’)」だ。

 1.Sensor mappingを開くと、マリーナベイサンズホテルを中心に建物群が通信し合っている。自動運転車、歩行者などの交通を制御する信号機、突然のスコール情報、ごみ捨てのセンサー監視などが明示され、やがてある地域に建つ建物のBIMデータが視認でき、火災時の避難などへの援用が示唆される。最後のスマホ画面には集合住宅の一室の避難経路が表示される。

 2.Smart trafficでは、自動運転車の挙動を説明している。GPSとの通信で目的地までの走行距離が把握でき、あらかじめ空き状態を確認した駐車場に停められるし、料金も自動的に課金される。全ての自動車の挙動が把握されているから、渋滞回避策も瞬時に講じられる。

 3.Smart homeでは、集合住宅のある一室がフォーカスされる。トイレの水が流されればリアルタイムで生活反応が把握できるように、主要な家電や住宅機器類にはセンサーが装備され、IoTによってサーバーに情報は送られビッグデータ化される。配管の水漏れもリアルで、動的(ダイナミック)な施設管理が可能となる。


 □2年前に逝ったリー・クワンユー氏の挑戦はデジタル社会の未知なる発展に向けて加速中□


 5月4日放映のNHK BSドキュメンタリー「地球タクシー『シンガポールを走る』」に登場のドライバー。自動運転タクシーに触れ、ロボットは嫌いだ、人間の方が優れているとうそぶくなど、職が失われる恐れも抱いていた。

 画一化されているにせよ、国民の多くは高層の公営住宅を入手でき、多民族多宗教にも関わらず、政情も安定している。成功した開発独裁のような一面も潜在させ、プライバシー保護ひとつをとっても、これまで経験したことのないデジタル社会の課題も内包しつつ、「スマート・ネーション構想」への挑戦は続いている。

 スマート・ネーション構想のサイト(http://graphics.wsj.com/singapore-smart-city/)

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週火・木曜日掲載)