BIMの課題と可能性・174/樋口一希/ダッソー・システムズと建築・3

2017年5月23日 トップニュース

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 シンガポール国立研究財団(National Research Foundation:NRF)がダッソー・システムズ(Dassault Systemes)との協働のもと、18年完成を目処に進めている「バーチャル・シンガポール(Virtual Singapore)」構想の実際を報告する。


 □デジタル化された都市生活を実現する重要な基底となる「バーチャル・シンガポール」□


 東京都23区ほどの箱庭のような国土を丸ごとデータベース化する「バーチャル・シンガポール」。NRFがインターネット上に提供する資料「Uses of Virtual Singapore」をベースに、BIMによる3次元モデルとの関連にもフォーカスして概説する。

 シンガポール全景から鳥の目のような鳥瞰的な視点で、観光スポットとして知られる植物園「Gardens by the Bay」の二つのドーム「フラワー・ドーム」「クラウド・フォレスト」を経てマリーナベイサンズ (MARINA BAY SANDS)へと近づいていく。やがて高層ビルが林立するオフィス街を抜けると、多くの住民が住む高層住宅が見えてくる。これ以降、この動画が単なるデジタル・プレゼンテーションではなく、前稿「スマート・ネーション(Singapore’s ’Smart Nation’)」構想が目指す高度にデジタル化された都市生活を実現するデータベースが基底となっているのが明らかとなっていく。


 □建物などの3次元モデルにI=Information(属性情報)を持たせて徹底的な利活用を目指している□


 最初に公営住宅と思われる高層住宅の一部屋が選択され、地番、換気方法、材質、日照時間などが表示される。高層住宅1棟が選択されると、「Area:1024.2sq m」「Valume:54,000m2」がマウス操作で確認でき、次の1棟では、駐車可能台数34台、樹木本数9本までが確認できる。このことから「バーチャル・シンガポール」では、建物などの3次元モデルにI=Information(属性情報)を持たせていることがわかるとともに、それらI=Informationの徹底した利活用を目指しているのがわかる。

 販売用と思われる超高層マンションでは1室の内観パースが表示される。販売促進目的にも再利用しているに違いない。後半部分では、交通、環境などのシミュレーションへの援用事例が確認できる。

 NRFでは、図にあるように、「バーチャル・シンガポール」における3次元モデルの詳細度=LOD(Level of Detail)を明らかにしているが、設計・施工時のBIMモデルがそのまま「バーチャル・シンガポール」へ援用されているのであろうか。シンガポールではBIMモデルでの確認申請が行われているが、それらのBIMモデルと「バーチャル・シンガポール」がどのように連携しているのかも注目できる。

 「スマート・ネーション(Singapore’s ’Smart Nation’)」構想で明らかとなったように、デジタル化された都市情報は、そこに住む住民に計り知れないほどの利便性を提供する。リー・クワンユー氏の遺志を継いだ俊英たちに抜かりはないはずだ。今後も参考にすべきテーマとして課題の追跡を続ける。

 ※動画:「Uses of Virtual Singapore」(https://www.youtube.com/watch?v=y8cXBSI6o44)

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週火・木曜日掲載)