論説・コラム

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2017提言特集/建築設計のかたち/座談会・国交省住宅局長×建築4団体会長  [2017年10月13日12面]

国交省・伊藤明子住宅局長〈中央〉と建築関連団体の4会長

古谷誠章氏

六鹿正治氏

大内達史氏

三井所清典氏

伊藤明子氏

 ◇建築設計界、新たな潮流にどう対応
 改正建築士法の施行から3年。建物の大規模化・複合化、発注形態の多様化、働き方改革など建築設計界を取り巻く環境は変わりつつある。こうした動きを踏まえ、国土交通省は8年ぶりに建築士法で定める業務報酬基準の改定作業を始めた。転換期を迎えた建築設計界の「新たな潮流」とは-。国交省の伊藤明子住宅局長を交え、日本建築士会連合会(士会連合会、三井所清典会長)、日本建築士事務所協会連合会(日事連、大内達史会長)、日本建築家協会(JIA、六鹿正治会長)、日本建築学会(古谷誠章会長)の4会長が展望を語り合った。
 □業務報酬基準改定□
 --設計、工事監理等に係る業務報酬基準(告示15号)の改定に向けた検討が本格的に始まった。
 大内 改正建築士法の施行から3年がたち、国交省と共に改定内容の周知を図っているが、中身が伴っていないのが現状だ。特に改正法の告示15号で業務報酬基準に沿った契約の締結が努力義務化されているにもかわらず、建築家の業務報酬は今も告示15号の基準を大きく下回っている。都道府県などの地方自治体に対して改善要望書も提出しているが、求めている水準には達していない。まず公共発注で報酬基準を上げ、民間へと波及させるやり方が有効だ。将来的に民間分野の業務報酬を高められるよう建築設計関係団体で連携し、新聞などのマスメディアを通じてアピールしていくことが必要だ。
 三井所 改正建築士法で建築士免許証の提示義務が導入され、昨年度と本年度は「建築士なりすまし疑惑」の国交省への報告がゼロだった。この点では効果が現れていると思う。設計業務は機能と形態、経済、時間という四つのバランスを取りながら進める論理的で創造的な仕事だ。残念なことに、日本ではそのような設計業務への社会的な評価が必ずしも高くないのが現状だ。9月に韓国・ソウルで開かれた国際建築家連合(UIA)の大会では、(日本を除く)アジアの建築家たちが楽しそうに仕事をしている様子が伝わってきたが、日本の建築家は経済的、精神的に余裕がないように感じられる。告示15号の基準を浸透させ、建築家の業務報酬を上げなければ、やがては日本の文化が駄目になるだろう。告示15号は浸透していない。業務報酬を高めるには、建築設計という仕事の重要性を世の中に理解してもらう方法を考えなくてはならない。法の実効性を高められるよう各団体で足並みをそろえ、国交省と連携しながら(報酬アップへの)大きな流れをつくっていく必要がある。
 伊藤 業務報酬基準の見直しに向け、今年3月に中央建築士審査会で検討を開始した。建築物の大規模化・複合化、発注方式の多様化など建築士を取り巻く状況の変化を踏まえて見直していく必要がある。8月に設計事務所20社へのヒアリングを終えた。今後課題を整理し、業務内容や業務量を把握するためのアンケートを実施して、18年度中に業務報酬基準を見直す予定だ。発注者の体制が十分でないことや専業の設計事務所の危機感などの課題も見えてくる。これらは業務報酬基準の改定だけで解けるものではなく、働き方改革とも結び付けながら考えなくてはいけないと思う。建築設計関係団体と協力しながら、まずは実態を把握するところから始める。
 □価格以外の評価□
 --設計者選定のあり方を巡る議論が再燃している。
 六鹿 建築家は社会全体の価値観を勘案し、あくまで中立の立場でクライアントとの関係を築いていく必要がある。発注方式については立場によって多様な意見があるが、設計という高い業務品質が求められる知的労働では、価格以外に品質をきちんと評価する審査手法を確立しなくてはならない。工事は設計図面があるため、図面を参考に(資機材費や人件費などを考慮しながら)受注価格を合理的に算出することができるが、設計はクライアントとやりとりしながら、創造行為の積み重ねによって事業の規模や内容などを固める過程を取っていく。このため、発注段階で業務内容の全体を把握しにくく、価格での競争はなじみにくい。設計業務を値段の多寡だけで発注することのない環境を醸成していきたい。
 古谷 設計案を評価されるのと、価格の安さを評価されるのとではうれしさが全然違う。他のアジアの建築家は、日本よりも報酬も高いせいか楽しく誇りを持って仕事をしているように見える。その意味を世の中の人に分かってもらいたい。建築設計の専門家が、どのように建築を創り、建築士がどういう責任を果たしているのかを市民にアピールすることが重要だ。日本建築学会の役割は市民が真に望む業務発注のあり方を調査して具現化することであり、そのためのタスクフォースを立ち上げるところだ。
 □地方自治体の現状□
 --地方自治体の業務発注の現状をどう見る。
 三井所 国交省官庁営繕部が、地方の公共建築物の一部に地域の職人や材料を使うようモデルを作れば県や市にも広まる。業務発注には、基本設計と実施設計の分離や、実施設計と工事監理を分離していく流れと、「DB(デザイン・ビルド=設計・施工一括)方式」や「ECI(アーリー・コントラクター・インボルブメント)方式」のようにそれらをまとめる流れが同時に起きていて、それでは市民は混乱する。入札不調になるから一括発注にしないといけないという論理には、予算作成段階の課題が抜けていたりして無理があると思う。
 伊藤 国交省の業務発注は、(地方整備局の事務所の発注業務まで)官庁営繕部などで適切に行うことができるが、地方自治体の発注は、体制が十分ではないこともあり、発注者としての役割が適切に果たされていない状況も見られる。このため、国交省官庁営繕部で「公共建築工事の発注者の役割」についての解説書を作成し、自治体に提示しているが、国交省が行える支援にも限界がある。建築設計関係団体でどういう発注形態がいいのかを議論し、発注者にアピールしてもらいたい。
 □役割の多様化□
 --災害対応、環境保全、文化継承など建築士に求められる役割が多様化している。
 大内 16年4月に起きた熊本地震で日事連は熊本県建築士事務所協会と共に「建築復興支援センター」を開設し、被災した人々の住宅の復旧を支援しているが、住民から住宅再建のためのモデル住宅の規模や金額などで多様な意見を聞いた。その取り組みの中で、住む人のことを考えて設計を行うことの重要性を改めて認識した。もう一つ、日本は個々の建物は非常に良いが、街並みへの配慮が足りない。国の施策でもっと考えることも必要だろう。
 三井所 普段から、日常的に気持ちよく暮らせるということを第一に考えて住宅の設計を考えるべきだと思っている。その上で災害時にも対応できるようにしなくてはならない。例えば、家屋に土間を設置すれば、近所の人々が井戸端会議もできる。水害時にも浸水後に土間はすぐに復旧できて、生活再建の足掛かりになる。もう一つは伝統文化の継承という観点から、設計段階から地元の職人や匠(たくみ)たちが仕事に参加できるようにする図面や仕様書作成の仕組みが必要だ。お寺やお宮以外の公共建築をゼネコンと地元の職人が一緒に作る体制を整えれば、職人が自らの仕事にもっと誇りを持てるようになる。そうなれば若者も跡を継ごうと考える。教育も大切だが、まず仕事を作ることが先だ。各種の職人が現代建築に関わることで、地域の「生業の生態系」を保全できる。
 古谷 日本の木造建築の技術は最大の輸出産業になり得ると思うが、技術や知識が継承されずに途絶えつつある。中国や韓国には既に木造建築の技術がほとんど残っていない。日本にはまだ残っているが、木造についての十分な知識を持つ設計者が不足している。環境保全にも配慮して木造回帰が望まれているが、今は再生できるかどうかの瀬戸際だ。輸出どころか国内のニーズにも対応できなくなる恐れもある。
 伊藤 木造を含めた建築物そのものの価値を高めることが、地域全体の価値を向上させることにつながる。行政側も建築規制などを考える際、そうした視点を組み込むよう勘案する必要があると思う。
 --日本人建築家が世界で活躍できる環境整備も課題になっている。
 古谷 これからの時代、建築の専門家はどんどん海外に出て仕事をしなくてはならないが、留学を望む学生が減っており、そこは大きな課題だ。建築教育の国際的な相互認証の取り組みでも、UIA建築教育憲章に対応する日本技術者教育認定機構(JABEE)の認定を受けた大学院が国内に五つしかない。国内の大学に認証取得を促す必要がある。そもそも国内では建築を志す若者の数が減り、建築学科への入学も高倍率ではなくなってきた。大学では男子よりも女子学生の能力が伸びているようだ。建築設計に魅力を感じている彼女たちを積極的に登用することで、業界が活性化すると思う。
 六鹿 日本の建築家は世界で高く評価されていて、その証しの一つとして7人もの日本人がプリツカー賞を受賞している。これは同時期のノーベル賞受賞者の日本人比率と比べて抜きん出ている。クライアントには確信を持って日本の建築家に多くの仕事を発注していただきたい。学生や若い人には自信を持って建築家の道を進んでもらいたい。日本の建築家は「防災」「環境」「文化継承」でも役割を高めつつある。
 三井所 地域と文化に根差すのが建築であり、設計活動を行うには現地の人との協業が欠かせない。逆に国内で地域に根差すということを突き詰めていけば、必ずしも留学しなくても相手の文化を尊重できるようになるのではないか。
 伊藤 かつての高度経済成長の時代とは異なり、日本の人口と経済規模が縮小していることが、建築設計界だけでなく、全ての国内産業に影響している。しかし、耐震化や省エネルギー、ストック活用などの分野で日本は優れた技術を有している。建築物がある限り、建築家の仕事はなくなることもない。
 □連携のあり方□
 --建築設計関係団体の連携のあり方をどう考える。
 古谷 各団体で扱う専門性の高い議論の中身を、組織を越えて連携しながら市民に分かりやすく発信する取り組みが必要だ。建築学会には学生会員も多く、実務家と学生の橋渡し役を担える。市民や若い世代向けのメッセージを分かりやすく発信する体制整備を急ぎたい。
 六鹿 JIAは、日本の建築設計界全体の国際的な顔、窓口となる団体だ。日本の建築家は海外で高く評価されている。そうした建築家を会員に多く抱える割には、建築家のネットワークを生かすという役割にはやや消極的だった。それは応分にやっていかないといけない。UIAやアジア地域建築家評議会(ARCASIA)での活動がその一つだが、JIA単体では活動に限界がある。官民で連携し、対外的に日本の建築家の役割をアピールし、貢献しなければならない。もちろんJIAは日本のすべての地域がベースであり、それらの地域をけん引する建築家のリーダーたちを育てるという重要な役割を果たしていきたい。
 大内 日事連は昨年、次代を担う若者が建築界の将来を考える「青年話創会」という青年ワーキンググループを立ち上げた。今年は全国大会の前日に行ったところ全国から約150人が集まった。最初は「青年話創会なんか意味ないよ」という声が聞こえてきたが、終わった途端に「やって良かった」と変わり、今回は多くの会が参加していただいた。物事は口だけで言うのではなく、実行あるのみだと思う。こうした若手を支援する取り組みが働き方改革の前進につながる。各団体で取り組みを議論するだけではなく、一緒になってどんどん実行していこうと考えている。
 三井所 建築士会と日本建築学会とJIAとは、11年3月の東日本大震災と16年4月の熊本地震で被災した文化財建造物の被災状況を調査するため、文化庁が進める「被災文化財建造物復旧支援事業(文化財ドクター派遣事業)」で連携した。歴史的まちづくりや空き家問題、地域の防災・福祉など、どう地域貢献を実践していくかを団体間で連携して考えていきたい。SNS(インターネット交流サイト)などを駆使して全国各地の意義深い取り組みを拾い上げていきたい。
 伊藤 建築設計関係団体が連携して、14年の建築士法の改正や建築設計・監理等業務委託契約約款の作成を行っていただいた。建築物の質の向上だけでなく、社会貢献や地域活性化に果たす役割も議論していただけるとありがたい。それぞれの団体は、細部は異なれど同じ方向を向いていると思う。国交省は規制などの制度を作る立場だが、業務発注も含め建築許可や条例制定など制度の運用は地方自治体に頑張ってもらわなくてはならない。ただ、自治体も人が足りず発注事務が大変になっている。だからこそ課題を見定めた上で、受発注者で連携しながら業界全体で環境整備を進めていければと思う。

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