BIMの課題と可能性・10/樋口一希/組織設計事務所のBIM運用・3

2014年3月27日 トップニュース

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 組織設計事務所としての日建設計の「建築とコンピュータ」の「これから」について報告する。


 □設計者にとって建物の3次元モデルを「建築的に」構築することの重要性□

 製造業の3次元モデラーの多くは、基本モデルを切断し、削り、くり貫いたりして目的の3次元モデルを生成する。建物は、そのようには建てないし、ユニークなのは、3次元モデルが虚(空間)と実(柱・床・壁などの躯体)から構成されることだ。

 清水建設がJ-BIM施工図CADで施工(図)モデルを構築したケースではデータベース化した躯体モデルを通り芯上に配置する方法を採用した。建築の最上流に位置する設計事務所では異なる方法を採用した。

 グラフィソフトの「ArchiCAD」は、実際に建物を建てるように、実(柱・床・壁などの躯体)モデルを入力し、それに囲まれる虚(空間)モデルを構築する。虚(空間)=3次元空間は「ゾーン」として定義され、虚実共に、設計者は3次元モデルを画面上でインタラクティブに、直感的に操作できる。

 「優れて建築的なBIMソフトは設計者をインスパイアするし、BIMソフトも設計者のノウハウを取り入れて成長していく」(日建設計執行役員設計部門代表・デジタルデザイン室長・山梨知彦氏)


 □「先進的なデジタル技術」の研究と実践についてセミナーなどで積極的に情報公開□

 桐朋学園大学調布キャンパス1号館の設計で用いたのがコンピュテーショナル・デザイン。音楽大学にとって最重要なのは「レッスン室」の設計与条件だ。楽器ごとに異なる特性に合わせてレッスン室のボリュームなどをシミュレーションし、その結果、得られた最適解を基に設計を進めた。

 設計対象建物にあらかじめ設定されたさまざまな与条件を基に、シミュレーションを行い、最適解を導き出し、設計者がBIMソフトで設計に援用する。コンピュータが得意な領域は任せ、そこからの最適解を設計者がBIMソフトで最大限に活用する。

 CGによる仮想世界と現実世界をコンピュータ上で統合し、建築的なシミュレーションに援用するキヤノンITソリューションズの「MR(Mixed Reality)技術」など先進的なデジタル技術についても、設計事務所として積極的に関与している。


 □アジア諸国からの設計部員も増加の傾向-建設業より身軽な設計事務所のアジア戦略□

 アジア諸国の中で、韓国とシンガポールは国策的にBIM化を推進している。BIMでの確認申請を行うシンガポールでは、我が国の建設業のBIM化の現況は非関税障壁ともなりかねない。

 国内市場が縮小する中で、建設会社も海外進出しているが、施工現場を持たないなど身軽な設計事務所の方が機動的にアジア進出できるに違いない。

 グラフィソフトは、東南アジア地域において、現地のBIM標準の構築を支援するため、大規模な投資を行っている。日建設計とグラフィソフトの目指すべき方向性は対アジア戦略でも一致した。

 「今回の日建設計と弊社の戦略的パートナーシップ締結の背景には、単なるBIMの改良に留まらず、日本とアジア地域でさらにBIMを促進するための明確なアジア戦略がある」(グラフィソフトジャパン社長・コバーチ・ベンツェ氏)

 次回は鴻池組の設計組織を中心としたBIM運用について報告する。

 〈アーキネット・ジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)