転職市場から見える建設業の未来・1/リクルートキャリア

2017年11月14日 トップニュース

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 ◇働く人々を惹きつけるために
 「働く人々を惹(ひ)きつけない業界は、過去を手にする。逆に、働く人々を惹きつける業界は、未来を手にする」。
 人材業界で長く語られる箴言(しんげん)だ。“業界”を、“企業”や“職場”に入れ替えても同様だ。
 今ほど、この教訓が全ての経営者、そして全ての働く人々に深く響く時代はないのではないだろうか。
 今連載では、50年以上にわたり転職市場動向を見つめてきた私達リクルートキャリアの目を通じて、いま日本の雇用市場、建設業界の転職市場に起こりつつある「未来の機会」を全6回にわたりお伝えしたい。第1回は、マクロ視点での変曲する転職市場動向をお伝えしよう。
 少子高齢化によって労働人口が減少していく、いわゆる「人口オーナス期」に突入した日本社会。2030年の労働力の需給ギャップは、820万人(想定)である。ちなみに最新の生産年齢人口は、7656万人。高齢者人口は、3459万人。シニア・女性も含めた労働参加と、ICT利活用による生産性の向上、つまり一億総活躍社会の実現は、日本社会にとって不可避の命題でもある。
 しかも働き手の多くは、子育てや介護、学び直しなど、時間や場所に何かしらに制約を抱えながら働く、“制約社員”である。さらに企業寿命の短命化と職業寿命の長寿化で、終身雇用を約束されなくなった働き手の多くは、自らのエンプロイアビリティー(雇用可能性)を高め続ける職場を渡り歩くのが必須の時代だ。
 いずれにしても、今後の働く主人公は、変化するライフステージとキャリアステージを、その都度、リ・デザインする「人生100年時代のライフワーカー」に彩られてゆくことになる。
 こうした労働市場の変曲は、有史以来、誰も体験していない未来である。企業は、いかに「旧来の人材が選べる時代の常識」にとらわれないで、「採用」「定着」「活躍」を図るか。働く個人は、いかに「旧来の終身雇用時代の常識」にとらわれないで、「転職」「学習」「活躍」を図るか。企業も個人も転換の好機でもある。
 「人材に対する業界の健全なる危機感」は、日本建設業連合会(日建連)が示した「建設業の長期ビジョン」にあらわれている。
 ~近年の我が国の建設業の産業体質の脆弱化、企業体力の劣化、技能労働者の処遇の低下など様々な歪みとして現れています。中でも、技能労働者の著しい高齢化と団塊世代を近い将来に控えていることは深刻な問題です。女性も含めた多くの若者を早急に招き入れ、世代交代を実現しなければ、10年を経ずして、建設業の生産体制が破綻しかねない極めて危機的な状態~。
 建設業界が見つめる未来への深刻な危機感は、転職市場を見つめる私達も同様に痛感している。
 弊社『リクルートエージェント』における2017年10月末日時点の建設エンジニアの転職求人倍率は4.67倍と、全職種中3番目に高い数値だ。ちなみに4.67倍は、求職登録者1名に対して、企業求人数が4.67件。つまり、求人企業の3.67社は人材を確保できない。逆に、求職登録者は4.67社から1社をじっくりと選べる。1級建築士などの有資格者の争奪戦はさらに激しく、シニアの求職者でも引く手あまたの状態だ。
 こうした需給逼迫から、企業の人材戦略は新たな局面を迎えている。詳細は次回以降に譲るが、そこには、業界に優秀な人材を惹きつける萌芽が見えてくる。キーワードは三つ。

1.【求人ターゲットの拡大】シニア、女性、異なる規模・成長ステージへ。新たな採用基準、評価報酬の再設計

2.【ライフフィットの強化】働く魅力の再設計。制約に寄り添った勤務条件の提示

3.【経営の積極関与】未来の戦略発信、大胆な生産性向上と働き方推進(ICT利活用、休日・賃金改定など)。


 いかに働く人々を惹きつける業界に変革するか?
 いかに自らを輝かせる魅力的な企業に身を置くか?
 建設業界にいる全ての企業と個人の新たな選択行動が、建設業の未来を手にする原動力。変革は始まっている。
 〈「リクナビ」編集長・藤井薫〉(毎週火曜日掲載)