転職市場から見える建設業の未来・2/リクルートキャリア

2017年11月21日 トップニュース

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◇ライフフィット転職のニーズに対応
 リクルートキャリアが、建設業界の転職市場のトレンドを全6回で紹介。第2回は「ライフフィット転職」をテーマに、今の時代の求職者に選ばれる企業がどんな取り組みをしているかに注目し、求職者の意識変化と企業の採用成功事例を伝える。
 「あなたは転職において何を一番重視しますか?」。転職を希望する建設エンジニアに対し、我々コンサルタントは面談前にアンケートを行っている。選択肢は〈1〉キャリアフィット(キャリアアップやキャリアチェンジ)、〈2〉カルチャーフィット(社風や価値観が合う)、〈3〉ライフフィット(プライベートの時間を増やす、産休育休制度の充実など)-三つだ。
 一昔前、転職といえばキャリアアップを目指すものだった。実際、今も50%の人が「キャリアフィット」を最重視すると答えている。しかし一方で、「ライフフィット」を最重視すると回答した人は35%に上る。この割合は20~30代でさらに上がり、男女差はほぼない。
 「ライフフィット」希望の中身を見ると、休日数・出張頻度・勤務時間の柔軟性・育児支援などがあるが、多くの求職者の希望は「残業時間を減らしたい」である。転職面談時、求職者に紹介候補の会社の求人票を渡すと、多くの人が真っ先に見るのが「残業時間」だ。
 応募意欲がわくかどうかの目安は「月間40時間以内」。一方、残業時間が不明な求人票は見向きもされない。残業時間の記載がない時点で、求職者は不安に思うからだ。記載なしの会社より「60時間」「80時間」などと正直に書いている企業の方がまだ検討対象になる。こうした求職者の心理を受け、我々は求人企業に対して残業時間の明記を推奨している。
 建設エンジニアの求人倍率は4.67倍(2017年10月末日時点)。求職者1人に対し、5枚の求人票がある状態だ。中でも施工管理職はさらに採用難易度が高く、中小規模の求人企業からは、「どうせうちには来ない」というあきらめの声が聞こえてくる。
 しかし「ライフフィット転職」を志向する人が増えている現在、小規模企業や知名度が低い企業にもチャンスが訪れているといえる。キャリア(仕事内容)やカルチャーはなかなか変えられないが、働き方は意識と工夫次第で変えることができるからだ。「ライフフィット」を志向する求職者にとって魅力的な働き方を打ち出すことこそ採用成功への近道だと、我々は考えている。
 実際、本来採用力が弱い企業が、「働き方」の魅力によって経験者採用に成功している事例もある。50名規模の仮設工事会社A社では、現場のかけ持ちを禁止し1人当たりの負荷を軽減、また工事管理以外の業務を別部署に切り出し土日出勤しても必ず代休が取れる仕組みを構築。残業を月30時間に抑え、1カ月で施工管理経験者2名の採用に成功した。
 不動産管理会社B社は、始業および終業時間を自分で設定できるフレックスタイム制・時短勤務制を導入。「子どもを保育園に迎えに行くため、17時には『周囲の目を気にせず』退社したい」と願っていた30代の1級建築士女性を即戦力として迎えることができた。  女性の建築士は、育児との両立に悩んで転職を図る人が多い。男性側も、妻がキャリアをあきらめずにすむよう、育児に積極的に携われる環境がある職場に転職するケースが増えている。こうした求職者側のニーズを受け、先進的な企業ではITツールを活用して直行直帰を可能にしたり、時短勤務の間も活躍できる「サポート専任」の新部署を設けたりしている。今の時代、働き方に柔軟性を持たせ、「選択できる」環境をつくることが、採用力アップにもつながるのだ。
 〈建設不動産業界専任キャリアアドバイザー・箕輪真人〉(毎週火曜掲載)