転職市場から見える建設業の未来・3/リクルートキャリア

2017年11月28日 トップニュース

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 ◇シニアの転職事例が大幅に増加
 リクルートキャリアが、建設業界の転職市場のトレンドを全6回で紹介。第3回は、「シニアの活用」をテーマに、シニア層の求職者の意識や企業のニーズ、転職事例について伝える。
 「前年同時期に比べて5倍に増加」。これは、我々が2016年4月から2017年3月にかけて50歳以上の建築技術者の転職をお手伝いした実績の変化だ。さらに今期は対前年比180%~200%までの増加を見込んでいる。ゼネコン、ハウスメーカー、設計事務所、建設コンサルタントなど、分野を問わず多くの企業がシニア人材の積極採用を進めている実情がある。
 「本当は若手がほしいが採用できない」という理由もあるが、「あえてシニアがほしい」という求人の方が多い。その背景の一つに「新規事業展開」がある。これまでとは構造や規模、用途などが異なる建築物を手がけていきたいが、社内には知見を持つ人材がいない。
 特に社歴が浅いベンチャー企業などが、大手出身のベテランを求めるケースが散見される。品質や安全管理のノウハウ、工程を組んで現場をまわす技術を移植し、指針やマニュアルを整備することを期待する。
 また、オリンピック需要によるところも大きい。一定規模以上の工事となれば、入札条件や人員配置義務などで「有資格者」が必要となる。業務を行うための必須条件であるため、年齢を問わず有資格者を確保したいというニーズだ。
 一方、シニア人材たちの意識はどうか。彼らの多くは、やりたいことや目的が明確だ。収入やポジションにはそれほどこだわらず、それよりも自分が蓄えてきたノウハウを若手に継承したい、社会の役に立てたいという想いが強い傾向が見られる。その目的のためには収入ダウンもいとわないという声もあるが、実際には前職収入を維持できているケースも多い。定年後に雇用延長で会社に残れば給与は5~7割程度に下がるところ、外に出てみると思いがけない高評価を得て、前職とほぼ同等の年収で転職できる人も少なくない。50代後半の元・大手ゼネコンの管理職の例を挙げると、会社にとどまれば年収は7掛け程度に下がるであろうところを、医療施設関連の工事経験が買われ、コンストラクションマネジメント会社に役員待遇で採用された。
 その後、2回目の転職の際も、不動産会社の工事監理部門に重要ポジションで迎えられている。
 全産業の中で、建設業は技能労働者も含め55歳以上の就業者はもっとも多い。その割合は30数%に達する。しかし、貴重な知見やノウハウをブラックボックスにしまい込んだまま、閑職に甘んじたり、退職してしまったりする人も多い。
 一歩会社の外に出れば、その知見を求めており、有効活用できる会社が存在するのに、非常にもったいないことだ。高齢化がさらに進む中、シニアの知見を「社会的財産」「教育財産」と捉え、社会で循環させていくような雇用機会が増えれば、その価値をもっと活かせるのではないだろうか。
 もちろん、現状でシニアを活用できていないわけではない。社内で講師を務める、管理業務を担うなど、役割を与えている会社も多い。しかし、当のシニア人材たちがそんな働き方を求めているかというと、そうではないことを我々は知っている。「やはり現場にいたい」「現場で実践に則して若手を育てたい」という想いを抱いている人は多いのだ。雇用する側は既成概念にとらわれることなく、シニア人材の可能性を拡げる道を探っていくのが望ましいと考える。
 〈建設不動産業界専任転職コンサルタント・平野竜太郎〉
(毎週火曜日掲載)