転職市場から見える建設業の未来・6(おわり)/リクルートキャリア

2017年12月19日 トップニュース

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 ◇採用競合に勝つための対策が急務
 リクルートキャリアが、建設業界の転職市場のトレンドを全6回で紹介。最終回は、建築技術者の他業種への流出が加速している現状と、建設業界が採用競合に勝つためにすべきことを伝えたい。
 建設業界は労働環境が厳しいと言われる。「どの建設会社も同じような状況だから、それによって採用で不利になることはない」とタカをくくってはいないだろうか。ところが近年、建築技術者の「採用競合」となる業種の幅が広がっている。
 もともと、重電や産業機械、自動車などのメーカーほか、不動産デベロッパーや物流施設デベロッパー、多店舗展開する小売・外食企業などは建築技術者を自社採用してきた。それらに加え、昨今ではIT企業が製造業向けのシステムを作るだけでなく生産ラインの構築から施工までワンストップで請け負うケースが増え、建設業許可を取得する動きが活発化している。ほか、住宅設備事業に乗り出す化学メーカー、結婚式場を展開するブライダル会社、イベント施設を運営する広告代理店、マンション型墓地を企画する葬祭関連会社など、実にさまざまな業種による建築技術者求人が我々のもとに寄せられている。
 IFRS(国際財務報告基準)が導入されると企業の保有不動産は時価で評価されるようになるため、「建築の専門家を自社で抱えたほうがいい」と考える企業も増えてきた。つまり、不動産を所有するあらゆる事業会社が、採用競合として増えていくことになる。
 では、資格を持つ建設技術者はというと、転職を検討する際、およそ半数以上の方は「発注者側に行きたい」と希望する。その目的としては「請負側でのキャリアをより川上で活かしたい」という志向と「労働環境の改善」がセットになっている。建設業界の労働環境は世の中全体から見れば非常に特殊であり、建設業界から出て異業界に行くだけで労働環境の改善につながるのだ。特に大手メーカーは土日の週休2日制が守られており、長期休暇も多い。
 しかし、発注側への転職を希望する方々に「仮に建設業界内で労働環境が改善できるなら、建設業界にとどまりますか」と聞くと、一部の方は「YES」と答える。「ないと思うが、そんな魔法のような求人があるならぜひ検討したい」と。つまり、優秀な技術者たちが異業界へ流れていくのは「やむをえないこと」ではなく、一定数は建設業界が改善を図れば踏みとどまらせることが可能なのだ。
 我々は2010年頃、リーマンショック後の不景気の時代に建築技術者がメーカーなどの事業会社に転職するのを多くお手伝いしたが、しばらくすると「建設業界に戻りたい」と再度相談に来る方が一定数いた。理由を聞くと、「物足りない」「手応えを感じられない」という。発注側にまわれば指示出しと進捗管理が主な仕事。現場のダイナミズムを感じる機会がない。そこで初めて「やりがいは現場にしかない」「現場にいてこそ、技術者としての知見やスキルを高めていける」と気付くのだ。最近も、ゼネコンからコンストラクションマネジメント会社に転職した50代の方が、「やはりものづくりの現場のほうが面白い」と、再度転職してゼネコンに戻った。
 建設業界は、幅広い業界が採用競合となり、さらに不利な状況に陥っていく現実にしっかり向き合うべきである。建設現場のやりがい、面白みを重視する人は多いのだから、労働環境の改善に真剣に取り組みさえすれば、優秀な技術者を呼び戻すことができる。次世代を担う若手技術者に選ばれるためにも、今こそ根本的な仕組みや風土の改善に取り組むべきと考える。
 〈建設不動産業界専任キャリアアドバイザー・平野竜太郎、箕輪真人〉