BIMのその先を目指して・44/樋口一希/富士山世界遺産センター・3

2018年3月15日 トップニュース

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 逆円すい形の展示棟内部のらせん状スロープを1階から5階へと登りながら、壁面に映し出された富士山の映像などによって疑似的に富士登山を体験できる静岡県富士山世界遺産センター。佐藤工業を中心とする施工者が3次元曲面の木格子の外壁とともに難工事が予想されたらせん状スロープをどのようにして実現したのかを検証する。

 □らせん状のスロープでは平行に重層する一般的な階定義も適用できないなど未知の課題にも挑戦□

 建物は2階建ての西棟と北棟、5階建ての展示棟から構成、構造的には基礎は1体だが、1階から上部の鉄骨はエキスパンションジョイントで分割され、更にはガラスのカーテンウオールで3棟がつながるなど建築基準法では1棟と規定されている。構造計算に際しても、階定義をどのように規定するのか日本建築センターと調整しながら進めるなど試行錯誤の連続であった。
 展示棟のスロープを2階まで上がると、企画展示室と事務室・研究スペースからなる西棟、265インチ・4Kが楽しめる映像シアターの北棟へとブリッジで接続されている。3階のブリッジからは、構造的には2階建ての西棟と北棟の屋上だが、室内空間としては3階ともいえる展示スペースへとつながっている。4階から展示棟の頂上階となる5階に上がると、富士山を借景として収めた展望ホールへと至り、外には屋外テラスが設けられている。

 □設計BIMモデル(スロープ)と手すりがパラメトリックな関係を持つようにスクリプトを開発□

 らせん状スロープの初元的な設計BIMモデルをそのまま再現して施工すると、大きさと形状がアトランダムに異なる幕板を大量に製造する必要性が予見された。そのため外壁の木格子で行ったように設計BIMモデルを分析、解析し、現場で押し曲げて施工できる現実的な曲率まで最適化した施工・製造BIMモデルを見いだした。
 らせん状スロープを可能にする幕板の施工・製造BIMモデル以上に難題となったのがスロープに沿って設ける手すりだ。設計BIMモデルに対して手すりを固定的に一対一で設定すると、スロープ側の設計変更時には、手すりも再度、モデリングする必要が生じる。そのため設計BIMモデルと手すりがパラメトリックな関係を持つようにスクリプトを開発し、スロープ側に設計変更が生じると、それに追従して手すりの形状が自動的に変更されるようにしている。パラメトリックモデリングといわれる手法である。

 □シンテグレートやダッソー・システムズなどサードパーティーが建築との協働で重要な役割を果たす□

 杭基礎上部の建物本体=西棟、北棟、展示棟の主要構造部は鉄骨造で、展示棟の中心はコア構造となっている。コア構造を中心として逆円すい形をトレースする斜めの柱・ブレースによる鉄骨トラスは、開かないように逆円すい形の上面リングで閉じており、外周部の6本の間柱と5階床構造部の拘束梁とで接合している。
 施工手順も逆円すい形の展示棟を前提に工夫がなされた。西棟、北棟に続いて展示棟中心部のコア構造を立ち上げた後に、斜めの柱・ブレースを受けるすり鉢状の仮設ステージを設けている。その後、斜めの鉄骨を受ける支保工・構台を設置してから逆円すい部の施工に着手した。
 展示棟を6分割してブロックごとに順番に斜めの鉄骨を取り付け、本締めしながら全体を組み上げる方法を採用したが、全座標を寸分も違わず設計通りに収束させるために支保工が重要なガイド役を果たした。
 本件のようなユニークな建物では、建築の側が設計から施工を経て先端的なデジタル・ファブリケーションに至るまで技術の射程距離を伸延するに際して、施工段階でのBIMマネジメントを担当したシンテグレートや管理基盤となる「3D EXPERIENCE」プラットフォームを提供したダッソー・システムズなどサードパーティーが重要な役割を果たすに違いない。
 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)