BIMのその先を目指して・49/樋口一希/グローバルBIM社の現況を追う・1

2018年4月19日 トップニュース

文字サイズ

 鹿島が我が国初のBIMサービスプロバイダーとして新会社「Global BIM」(グローバルBIM、以下GB社)の設立を発表したのは17年4月だ。半年後の10月にはBIM技術者を数多く有した沖縄デジタルビジョンの全株式を取得、経営統合して新生GB社として活動を加速化させている。鹿島の施工BIM運用の変遷も振り返るとともに、すでに複数の建設会社へのコンサルティング業務で実績を上げているGB社の現況を報告する。

 □BIMの向こう側へと突き抜けることで建設業そのものを新たな事業ドメインとして再構築□

 日経アーキテクチュア誌の17年12月28日号「編集部が選ぶ10大建築人2018」。アーキテクト・オブ・ザ・イヤー2018一位に選ばれた安藤忠雄氏に続いて本連載と縁の深い人物が個別分野で俎上(そじょう)に上がった。その他の分野の角田大輔氏(日建設計設計部門DDL室室長代理)と技術分野の矢島和美氏(鹿島BIM推進室長・グローバルBIM副社長)だ。矢島氏の選考事由は「鹿島の施工BIMを先導。17年度から全現場にBIMを導入した。新会社のグローバルBIMでは副社長に就任」。建築ジャーナリズムのメインストリームを標榜する同誌が「建築界及び一般社会に影響を与えることが期待される建築関係者」として両氏を選んだのは、「建築とコンピュータ」に長く関わってきた者としても留飲の下がる思いだ。
 デジタルは組織の壁も国境さえも越えていく。壁を作るのではなく、異なる領域を架橋するGB社の活動は優れて時代状況的だ。既存の産業にICTを挿入、撹拌(かくはん)して建築とコンピュータの業際を革新する。GB社の活動を俯瞰する時、その先の更なる可能性が見えてくる。もうひとつのAIともいえるArchitectural Informationを駆使して、BIMの向こう側へと突き抜け、建設業そのものを新たな事業ドメイン=情報産業として再構築する近未来だ。

 □建設業の最も重要な生産現場である施工工程に軸足を置いたことでBIM運用の実利に直結□

 GB社の現在を概説するため前史ともいえる鹿島の施工BIM運用の変遷を振り返る。前連載「BIMの課題と可能性」で「鹿島の『Global BIM』」を取り上げた15年1月には、すでにBIM適用案件は150を数え、部分的なBIM運用を含めると約2倍の案件数となり、3次元モデル構築と2次元図面作成のコストも約30%減と実利面でも定量的な成果が明らかとなっていた。そのため取材の要諦は、それらの成果をいかにして実体化し、施工BIM運用の優位性を獲得したのかに集中した。
 特筆できるのは、製造業の工場にも例えられる、建設業の生産現場である施工フェーズにBIM運用の軸足を置いたことだ。それによってBIM運用件数の増加やコスト削減などが金額の多寡という実利に直結する。一方で建築物は一品生産で、施工現場はテンポラリーであり、情報のデジタル化には向いていないとの建設業の抱えるユニークかつ根源的な課題を解決する必要性に迫られた。

 □データベース+クラウド+ネットワークなど先駆的なBIM協働によってワークフロー革新□

 鹿島では1980年代初頭から汎用大型コンピュータを用いて建築物を構成する3次元オブジェクトを定義、データベース化し、デジタル空間にプレコンストラクションする3次元CADシステムを開発していた。施工BIM推進に際して選択したのは、データベースと連動する3次元CADのコンセプトを受け継ぎ、ネットワークで協働できるBIMソフト「ARCHICAD」(グラフィソフト社)であった。
 国内外の関係者間でクラウドサーバーを共有し、BIMモデルを協働して構築する態勢を実現した。それらは、海外ではフィリピンのAidea(設計会社兼BIMコンサルタント)、HLCジャパン・インド(BPO)、韓国のDoalltech(グラフィソフト・コリア)、国内では施工図作成の鹿島クレスと鹿島沖縄BIMセンターであり、BIM推進グループ所属のBIMマネージャーがプロジェクト全体の統括管理を行う態勢として構築された。
 初めに施工BIMありきを実現するため、設計BIMの充足を待たずに、現場から離れた遠隔地でもネットワークを介して施工BIMの「基本モデル」を入力できるようARCHICADをカスタマイズした。施工BIMのインフラは進化を続け、建設業のワークフロー革新を現実のものとしている。
 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)