論説・コラム

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シリーズ・国のかたちを考える/ぐるなび代表取締役会長兼最高経営責任者・滝久雄氏  [2018年7月12日1面]

滝氏

 ◇食文化と芸術で日本を活性化
 かつて外食産業にはメディアがなく、飲食店の集客は立地条件に大きく左右されていた。裏通りよりも表通りに面している店の方が有利だった。これがインターネット時代となり、外食産業のメディアとして90年代半ばに「ぐるなび」が登場したことで、店主は少ない投資でも大きな集客成果を出せるようになった。今ではさまざまなメディアも誕生し、表通りと裏通りの立地価値が変わらなくなっているとの見方もできる。こうした変化に伴い、最も頻度の高い非日常性の文化である外食がバラエティーに富み、品質も高くなってきたといえよう。
 外国から日本を訪れる旅行者が一番に求めているのが「食」だ。日本の食文化に対し、外国の方々は大きな魅力を感じている。そして何よりも国民がおいしいものを楽しみにしている。今後もITを用いた事業基盤で外食産業を支援することに加え、国民も広く巻き込んだかたちで応援していきたい。
 日本でおいしいものが提供できるのは、非常に質の良い食材があるからで、農業の持続的成長も不可欠といえる。そのためには農業の産業化、つまり輸出の拡大を急ぐべきだ。これが地域の活性化にもつながる。政府は成長戦略の一環で、2019年に農産物の輸出額1兆円を目標に掲げている。だが、日本の九州とほぼ同じ面積のオランダの輸出額は10兆円に上る。日本にはそれ以上の輸出ポテンシャルがあり、農産物の輸入を自由化しても品質の良い食材を外国により高く買ってもらうための政策を進めればいい。農業の産業化で得られる効果は、観光振興を上回っていくかもしれない。仮に農産物の輸出額目標を10兆円とすれば、そのためにやるべきこと、準備すべきことが明確になっていくだろう。
 同時に農業の産業化を支える基盤整備がより重要となる。ロサンゼルス等の大都市で注目されている都市型農業などもヒントになる。輸送によるコストや環境への負荷を減らせるという効果だけではない。ポスト自動車産業が言われて久しいが、そのような産業構造の変化に伴う余剰人材や工場跡地の活用などに大きな可能性があるのではないだろうか。
 日本交通文化協会などでの活動を通じて長年、鉄道駅や空港、商業施設、公園といった公共空間にアート作品を設置するパブリックアートの普及にも取り組んでいる。欧米などの国々では公共事業費の1%に相当する予算を芸術・文化に充てる「1%フォー・アート」の制度が導入されている。日本人が文化に対する価値観を取り戻すためにも、日本でこの制度が一日も早く実現されることを願う。
 (たき・ひさお)ぐるなび創業者。1963年東京工業大学理工学部卒。67年交通文化事業社(現NKB)入社、85年社長(現取締役会長)。96年に飲食店検索サイト「ぐるなび」を開設。99年ぐるなび代表取締役会長兼社長などを経て、2010年2月から現職。日本交通文化協会理事長。東京都出身、78歳。

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