論説・コラム

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シリーズ・国のかたちを考える2018/エッセイスト・女優・一青妙さん  [2018年8月10日1面]

一青妙さん

 ◇100年後、200年後の暮らし支える
 土木の世界を知ったのは、日本人土木技師・八田與一(1886~1942年)の生涯を描いたアニメ映画「パッテンライ!!南の島の水ものがたり」(石黒昇監督、2008年公開)に、與一の妻・外代樹役の声優として出演したのがきっかけだった。台湾・嘉南平野を豊かな穀倉地帯に変えた「烏山頭ダム」の建設を指揮した八田は、台湾で教科書に載るほどの有名人だが、日本での知名度はそこまで高くない。私もそれまでは知らなかった。09年に台湾での上映会に招かれ、初めて烏山頭ダムを見て、土木技術者の偉大さを感じた。
 道路や地下鉄などの建設中は交通規制で邪魔だと思うが、完成して使い始めるとその恩恵はすごい。みんなインフラはあるのが当たり前と思っていて、土木技術者がどんな思いで造ったかはほとんど考えない。台湾は日本による統治が行われたが、時代、世紀、国境を越えた日本統治の象徴として烏山頭ダムがある。台湾北部の基隆市には日本が築港し、当時は東洋一とうたわれた貿易港が残る。今は10万トン級以上の大型客船が寄港する台湾のインバウンド拠点だ。台湾を一周する鉄道網も日本が大半を造り上げた。日本人の造ったインフラを見て、ものづくりの大切さに改めて気付いた。
 住宅は一つの家族の幸せをつくるが、土木構造物は地域や国全体、世界の人々を幸せにする大きな仕事でやりがいがある。烏山頭ダムは建設後100年近くが経過し、役割も水の供給だけでなく、地域の観光基盤、日台の歴史・文化発信の場となっている。これからの構造物は100年後、200年後に役割を変えながらも、人々の暮らしを支えていけるようにならなければならない。
 日本の雑誌の表紙で台湾を紹介する写真として、台南市の一角に残る古い街並みが使われ、台湾で賛否を巡り論争になったことがある。台湾では日本のきれいに整った街並み、建物に憧れを持つ人も多い。一方で昔からの伝統市場(いちば)が生活の基盤、人と人の触れ合いの場として機能している。元は露天販売を行っていた市場だが、日本人がより衛生的にしようと屋根付きの建物を建て、新しい市場に造り替えた。
 台南には当時の姿の市場が残り、そうした建物群や景観を街づくりに生かしている。地域の文化として建物を守りながら、居住環境の中に道路や文化施設、歴史がうまく共存している。リノベーションの技術が発達し、200年以上前の建物を今も使っている。街全体が美術館、博物館という趣があり、古い建物に懐かしさと温かさを感じ、心が落ち着く。人々の価値観は多様だが、古い街並みを次世代に伝えていくことも現代人の役割と考えている。
 (ひとと・たえ)台湾の名家である顔家の長男だった父と石川県出身の母との間に生まれる。著書に「私の箱子」(講談社)や「わたしの台南」(新潮社)など。台南市親善大使、石川県中能登町観光大使を務める。

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