論説・コラム

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シリーズ・国のかたちを考える2018/職業能力開発総合大学校長・圓川隆夫氏  [2018年12月28日1面]

圓川氏

 ◇技能を科学することが発展に
 司馬遼太郎が『この国のかたち』で言ったように、日本は古来、職人の技が尊敬された重職主義の国だ。
 その伝統を受け継いでいくべきだと言いたいところだが、一方で「匠(たくみ)の呪縛」という指摘がある。熟練の技能や経験といった匠の技に頼り、ソフトウエアや普遍的な枠組み、理論を苦手としてきた。ものづくりは日本の強みだし、匠も存在する。技能をベースにIoT(モノのインターネット)を取り入れるなどして生産性を高めることは、日本が発展していく上での課題になるだろう。
 そうした考えで2月に職業能力開発総合大学校の研究者たちが共同執筆した『技能科学入門』(PTU技能科学研究会編)を出版した。匠の技を見える化し、マニュアルにできれば技能の伝承の容易化、スピードアップ、高度化を図ることができる。技能の見える化へ、工学だけではなく、人工知能(AI)に代表される人間情報学、統計・シミュレーションなどの社会システム科学、インタビューを通じて人の知識を引き出すような研究を行う教育学などからのアプローチも重要となる。
 職業大では実践として、金型の技能を完全に見える化し、eラーニングのテキストを作っている。建築分野では、2次元(2D)の図面からAR(拡張現実)を用いて躯体の3次元(3D)のイメージを示し、学生の理解を早めることに役立ている。技能五輪で成績を収めた選手の体にモーションキャプチャーを付けて動きをデジタル化し、選手の強化に用いる取り組みもある。
 日本には技能から出発して起業したような歴史もある。江戸時代に清水建設を創業した清水喜助は、卓越した技能を持った大工だった。匠は技術開発と製作を同時に行える総合力が問われる。日本が得意とするものづくりから起業することも視野に入れ、職業大では本年度から新たなカリキュラムで一般教養を強化した。幅広い知識を持つことが起業には重要であり、職業大が育成する職業訓練指導員にも求められる。
 日本の発展を支えてきた「ものづくり」産業が実践する「カイゼン」や「5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)」の活動は、世界で尊敬されている。ただ、2000年代に台頭した米国のグーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンの頭文字を取った「GAFA(ガーファ)」は、顧客が体験したいことを示して価値を提供する「ことづくり」で稼いでいる。これら企業の時価総額はトヨタ自動車の4~5倍ともいわれる。
 この分野で日本は後れを取っている。ここにきてトヨタ自動車も自動車会社から移動サービス会社への転換を打ち出した。日本でも機運が高まってきていることづくりの取り組みを強化していくべきではないだろうか。
 (えんかわ・たかお)1949年11月27日生まれ。山口県出身。75年東工大大学院修士課程修了、80年に工学博士となり、大学院イノベーションマネジメント研究科長などを歴任。専門は品質管理、サプライチェーンマネジメント。2016年から現職。

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