論説・コラム

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回転窓/単線鉄道の記憶  [2019年6月11日1面]

 幼稚園に通っていた頃の話。自宅近くを走る鉄道は車両の床が木製で車内にオイルの臭いが漂っていた。少し離れていた幼稚園に通うため毎朝、母親と一緒に電車に乗っていた▼その鉄道は単線で運行していたが、レールが2本しかないことに何の違和感も抱かなかった。だが大きくなって物心がつく年になると単線の運行をなんだか恥ずかしく思うようになった▼鉄道会社や自治体は街の分断解消や事故防止を目的に連続立体交差事業に力を注ぐ。各地で事業が進む中、堺市では国の登録有形文化財に登録されている南海電鉄の諏訪ノ森駅西駅舎が100年に及ぶ歴史に終止符を打つことになった▼駅舎の利用開始は1919年。ステンドグラスの装飾が施されるなど、貴重な木造の駅舎はモダンな雰囲気が漂う。連立事業によって駅舎としての役割は終えるが、曳家(ひきや)で近くに移し地域住民などの憩いの場として使われる▼自宅近くを走る鉄道も連立事業が徐々に進行し遠くない将来、単線でなくなる。便利になるのはもちろん良いのだが、懐かしい記憶も一緒に失われるような気がして、少しだけ寂しい気分になる。

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