BIMのその先を目指して
BIMのその先を目指して・100/樋口一希/BIMによる建築士試験は実現するか [2019年6月20日]
日本建築学会から「改正建築士法施行に向けた日本建築学会からの意見」が公表された。BIMの現況を取材する立場から現場の意見も総合して私見を述べる。
□学会も2次元・3次元CADが実務で用いられており一部ではBIM導入が進むとの認識示す□
建築士試験スクールのテレビCMに違和感を覚えた。女性が製図板で図面を描いていたが2次元CADは普及を終え、実務では製図板は使っていない。製図試験になると、手描き図面を演習し、製図板を持って試験を受けるブラックジョークが放置されている。
学会も意見書の『現状の課題』では、「実社会においては一般的に2次元および3次元CADが実務に用いられているのに加えて、一部ではBIMの導入が進んでおり、今後は設計・施工・維持管理の各段階でBIMを含めた3次元技術の活用がさらに進んでいく可能性が高い。従って、手描きによる現行の『設計製図の試験』と教育や実務の実態に乖離(かいり)が見られ、相互の整合や接続に課題がある」としている。
□BIMでは図面自動生成で2次元CAD試験も不要+「計画・設計能力」の審査にはBIMが最適□
製図試験について意見書では「二次試験(設計製図の試験)で問うべき能力の分離について」で触れ、「(前略)そのため二次試験の改善にあたっては、『計画・設計能力を問う部分』と『製図能力を問う部分』に分離した上で、それぞれについて適切な水準の能力が獲得されているかを適切な形式と内容の試験等で確認するかたちに改善すべきである」としている。2次元CADからBIMへと移行する現況下での「製図能力」と「計画・設計能力」の審査について検証してみる。
BIMでは建物3次元モデルから図にあるように2次元図面を自動生成する。設計変更はBIMの3次元建物モデルで行い、確認申請の直前まで図面(作成)出力をしない事例も増えている。「作業としての製図は終わった」状況下で、2次元CADでの製図試験を導入すればブラックジョークの再現になる。製図試験の作図要項などをBIMのテンプレートとして事前構築すれば、誰もが同水準で図面生成できるから「製図能力」が審査できるとは思えない。
BIMに精通した設計者は「2次元CADでは本来、3次元である建築物を平・立・断面図に分解して描くという不自然な行為を行っていた」と語る。そのためBIMによる2次元図面の自動生成と相まって、2次元CADは「計画・設計能力」の審査には不向きでBIMによってこそ可能となる。
□クラウドでBIMを試験限定で使用+スマホで本人認証して会社のパソコンでの受験も可能□
BIM状況が進行する現況を基に2次試験(設計製図の試験)のありようを考えると、2次元CADも飛び越え、一挙にBIM利用に進むべきだ。BIMによる建築士試験の実現のためには、2次元図面を必須としている建築基準法の改正、建築確認機関と行政側の審査体制の革新などが必須であるなど多くの困難が伴うが、手描き試験は論外だから関係者の総力を上げてスピード感を持って解決すべきだ。
どのBIMソフトを用いるのかも課題だが、主要なBIMソフトは固まりつつあるし、ベンダーが試験用クラウドを用意して、試験時にBIMソフトを期間限定で使用できるようにする。スマートフォンとフィンテックを応用して本人認証すれば、日常業務で使用しているパソコンをそのまま使用することも可能だ。学科試験こそ専用のホームページで行えば良いだろう。
近い将来、建築士試験は全行程がデジタル化され、AI試験官による審査、判定が行われるに違いない。BIMを先進的に運用しているマンションメーカーなどでは、AIによる設計を実用化している。AIを用いて、設計完了後の建物3次元モデルを、建築士試験の与条件に即して逆算すれば「計画・設計能力」の審査が可能となるはずだ。
できないことを論(あげつら)うのではなく、広く業界全体で議論を尽くし、一刻も早く試験制度も改善することだ。
《参照》日本建築学会「改正建築士法施行に向けた日本建築学会からの意見」(https://www.aij.or.jp/jpn/symposium/2019/08kenchikushi.pdf)
〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)
□学会も2次元・3次元CADが実務で用いられており一部ではBIM導入が進むとの認識示す□
建築士試験スクールのテレビCMに違和感を覚えた。女性が製図板で図面を描いていたが2次元CADは普及を終え、実務では製図板は使っていない。製図試験になると、手描き図面を演習し、製図板を持って試験を受けるブラックジョークが放置されている。
学会も意見書の『現状の課題』では、「実社会においては一般的に2次元および3次元CADが実務に用いられているのに加えて、一部ではBIMの導入が進んでおり、今後は設計・施工・維持管理の各段階でBIMを含めた3次元技術の活用がさらに進んでいく可能性が高い。従って、手描きによる現行の『設計製図の試験』と教育や実務の実態に乖離(かいり)が見られ、相互の整合や接続に課題がある」としている。
□BIMでは図面自動生成で2次元CAD試験も不要+「計画・設計能力」の審査にはBIMが最適□
製図試験について意見書では「二次試験(設計製図の試験)で問うべき能力の分離について」で触れ、「(前略)そのため二次試験の改善にあたっては、『計画・設計能力を問う部分』と『製図能力を問う部分』に分離した上で、それぞれについて適切な水準の能力が獲得されているかを適切な形式と内容の試験等で確認するかたちに改善すべきである」としている。2次元CADからBIMへと移行する現況下での「製図能力」と「計画・設計能力」の審査について検証してみる。
BIMでは建物3次元モデルから図にあるように2次元図面を自動生成する。設計変更はBIMの3次元建物モデルで行い、確認申請の直前まで図面(作成)出力をしない事例も増えている。「作業としての製図は終わった」状況下で、2次元CADでの製図試験を導入すればブラックジョークの再現になる。製図試験の作図要項などをBIMのテンプレートとして事前構築すれば、誰もが同水準で図面生成できるから「製図能力」が審査できるとは思えない。
BIMに精通した設計者は「2次元CADでは本来、3次元である建築物を平・立・断面図に分解して描くという不自然な行為を行っていた」と語る。そのためBIMによる2次元図面の自動生成と相まって、2次元CADは「計画・設計能力」の審査には不向きでBIMによってこそ可能となる。
□クラウドでBIMを試験限定で使用+スマホで本人認証して会社のパソコンでの受験も可能□
BIM状況が進行する現況を基に2次試験(設計製図の試験)のありようを考えると、2次元CADも飛び越え、一挙にBIM利用に進むべきだ。BIMによる建築士試験の実現のためには、2次元図面を必須としている建築基準法の改正、建築確認機関と行政側の審査体制の革新などが必須であるなど多くの困難が伴うが、手描き試験は論外だから関係者の総力を上げてスピード感を持って解決すべきだ。
どのBIMソフトを用いるのかも課題だが、主要なBIMソフトは固まりつつあるし、ベンダーが試験用クラウドを用意して、試験時にBIMソフトを期間限定で使用できるようにする。スマートフォンとフィンテックを応用して本人認証すれば、日常業務で使用しているパソコンをそのまま使用することも可能だ。学科試験こそ専用のホームページで行えば良いだろう。
近い将来、建築士試験は全行程がデジタル化され、AI試験官による審査、判定が行われるに違いない。BIMを先進的に運用しているマンションメーカーなどでは、AIによる設計を実用化している。AIを用いて、設計完了後の建物3次元モデルを、建築士試験の与条件に即して逆算すれば「計画・設計能力」の審査が可能となるはずだ。
できないことを論(あげつら)うのではなく、広く業界全体で議論を尽くし、一刻も早く試験制度も改善することだ。
《参照》日本建築学会「改正建築士法施行に向けた日本建築学会からの意見」(https://www.aij.or.jp/jpn/symposium/2019/08kenchikushi.pdf)
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