BIMのその先を目指して

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BIMのその先を目指して・102/樋口一希/横松建築設計事務所の成功事例・上  [2019年7月18日]

保育園の内観パース

 5万7956はコンビニの店舗数、10万2505は建築設計事務所の数だ(※)。コンビニは街を歩けば目にするのに、設計事務所は姿が見えない。設計事務所はコンビニと同様、建築の素人である一般ユーザーと市場を相手にしている。設計事務所本来のビジネスモデルであるB to CをBIM導入で強化し、存続の危機を乗り越え、中国から案件を受注するに至った地方事務所の成功事例を報告する。

 □耐震偽装事件で未払いも発生する最悪の事態の中で脱下請を目指してBIM導入に踏み切る□

 横松邦明氏(横松建築設計事務所専務)が講師を務める、BIMソフト「ARCHICAD」のベンダー、グラフィソフト主催のセミナーに参加した。予想を超えて参加者に衝撃を与える結末となった。
 所員4人の宇都宮市の設計事務所がBIM導入を決断した背景には「姉歯ショック」があった。マンション・デベロッパーの協力事務所として経営は順調だったが、突然の耐震偽装事件で確認申請も下りず、デベロッパーは未払いで姿を消すなど、17人の所員を4人にするほど最悪の事態を迎えた。インターネットで建築分野での3次元CAD(BIM)の存在を知った横松氏は社長を説得、試用版で好感触を持ったBIMソフト「ARCHICAD」を導入する。
 横松氏は、設計の3次元化が進む製造業出身というキャリアを持つ。BIM導入のもうひとつの背景には、図面表現をある程度、割り切るなど横松氏が建築内部のこだわりから自由であった面がある。

 □保育園にニーズありと的を絞りFAXでダイレクトメールを送りBIMを携えて飛び込み営業□

 危機的な状況下、BIMを導入したからには成果を上げなければならない。保育園など社会福祉施設にFAXを送り、訪問する飛び込み営業に踏み切った。保育園設置には補助金が出るなど公的支援があるが既築建物に保育園を新設する際、100平方メートルを超える場合には用途変更のための建築確認申請が必須だ。自治体によってはバリアフリー法適合が義務付けられるなど建築士の出番がある。保育園にニーズありと的を絞り、「武士は食わねど」と揶揄(やゆ)される士業ビジネスの殻を破っていった。
 「MacBookにBIMを入れて通ううちにプランが提示されるケースも現れた」(横松氏)。間髪を入れずにBIMでモデリングして図面を持って再訪した。プランがあれば瞬時に3次元で見せられる。BIMの見える化は「こんなことができるのか」と強いインパクトを与えた。時にはその場で修正して代替案も提示すると、圧倒的なスピードと見える化で設計を受託できる確率が高まっていった。

 □設計組織をバーチャル空間上に展開しデジタルによるグループ設計という新たな手法確立□

 BIMを用いた営業戦略によって業務範囲はマンション主体から保育園、医院・クリニック、一戸建て住宅へと広がり、飛び込み営業なしでも受注量を確保できるようになる中で、問い合わせも宇都宮市内にとどまらず、首都圏へ広がりをみせていった。新たな人材も入所し、足立区へ拠点を設けるに際して宇都宮市と東京の二拠点施策を支えたのがインターネットだ。SkypeなどのTV通話で所員、現場作業員、建築主とも連絡を取り合い、業務の質的向上と効率化を実現している。「ARCHICAD」はネットワーク機能を持ち、遠隔地間でもグループ設計が可能だ。
 「ARCHICAD」の3次元建物モデルはBIMxというビューワーソフトで共有できるので、建築主がスマホやタブレットを持っていれば、BIMxで3次元パースを閲覧してもらい、オンラインで打ち合わせができる。リアルな設計組織をインターネットのバーチャルな空間上に展開することでデジタルによるグループ設計という新たな手法を手に入れた。
 ホームページ(HP)を意識的にメディアとして充実する中で、受注案件の半分がHPから、半分は紹介またはリピーターとなっている。そのことが思いもかけず中国からの案件受注に結びついていく。
 (※)日本フランチャイズチェーン協会(2018年3月末)と日本建築士事務所協会連合会(18年4月1日)調べ。設計事務所には意匠系のほか施工図事務所、鉄骨図専業事務所なども含む。
 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)

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